第19章 友が為
「……潮時かもしれないな」
ピクリッ
高杉は背中越しに聞こえた彼女の言葉に、耳を疑った。
潮時?何言ってんだ?
「……銀時は深手を負ってしまった。拠点に戻り次第、すぐに処置しても、恐らく、良くはならない」
高杉の不安の鼓動が高鳴る。
今すぐにでも、おぶっている彼女を下ろして、両肩を掴んで問い詰めたかった。
一体どういうことなんだと。
表情が見えないため、なおさらその不安げな声が、より一層強調して聞こえる。
グッ
高杉は雅をおぶる両手を、より一層力強く組む。
釣られるように震えた声をなんとか出す。
「…‥銀時は、アイツは…どうなるんだ?」
「……どうにかするさ。そのために私は戦ってきた。そしてしばらく戦場から身を引く」
!?
じわじわと迫り来る不安に、衝撃が加わる。
思わず足を止めると、雅に肩を叩かれ、歩き続けるよう催促される。
「一体どういうことなんだ?」
「……言葉足らずだったか。潮時なのは銀時のことじゃない。
・・・・・
私のことだ」
歩き続けていると、景色がいつの間にか、深緑の山の中へと進んでいた。
ここはかつて、天照院奈落に奇襲を受けた忌々しき地でもあった。
ここ数日、雨が続いていたせいか、場所によってぬかるんでいたため、高杉は慎重になりながら、雅を運ぶ。
「……アンタはよく言っていたね。「唯一無二である医者のてめェがおっ死ぬなんて、全く洒落にならねェ」って」
「……ああ。今でも思っていらァ」
「私も、そう思い始めただけだ……」
高杉自身よく自覚していた。
雅のことを、ただの軍医としてではなく、かけがえのない友。否、それ以上に大切な存在だと。
軍医という見せかけの理由を使っては、彼女の身を誰よりも案じて、いっそのこと……
「……随分と素直になりやがったじゃねェか。俺達よりも大人のてめーが、ようやくガキみてェに駄々こねるのやめて、本当に大人になったってか?」
「……ほざけ」
その言葉には、含み笑いが込められており、高杉は一層安堵の気持ちを覚える。
雅が、本来の自分の立場を自覚して医療に徹すると、確かにその口で言い放ったのだ。