第19章 友が為
周りの天人は、たとえ女で、しかも手負いの仲間を背負っている相手でも、全く容赦しない。
むしろ、絶好のチャンスだと胸を躍らせていた。
あの白夜叉がこのザマ。うまくいけば青い死神の首も手に入る、と。
「白夜叉!!青い死神ィ!!」
槍を持った天人が近付いて突いてくる。
雅はすかさず避けて、その間に刀の柄を口に咥え、左手を空ける。
相手が突く瞬間、体を逸らしつつ槍の刃の付け根あたりを掴み、逆に敵を己に引き寄せた。
「なッ!」
そして咥えたままの刀を相手の顔へ、即死の一撃の刃を食らわす。
唸りをあげさせないほどの一瞬だった。
仲間を抱えているハンデがあるにも関わらず、一つ一つの動きに無駄がない。
死神の超人的な戦いを目の前にし、周りの敵は怯んで後ずさりした。
(コイツ、本当に人間か…?)
白夜叉と同様にこんな脅威的な敵がいたとは…
いや、白夜叉とは
・・・・
根本的に別の意味で脅威だ。
異名の通り、相手を死に至らしめる邪神のごとき存在。
命を救う医者とは信じがたい。
「雅ッ!!」
高杉率いる鬼兵隊の援軍が見えて来て、敵は撤退を余儀なくされた。
「ッ!撤退だァッ!もう時間稼ぎは十分だァッ!」
「!」
敵の指揮者らしき天人が、馬に乗って声を上げる。
「蠱毒の種子は、十分にこの戦場に根付いた!我々は引くんだ!」
「ッ!」
雅はすかさず自分の腰にある小刀を抜き、その天人の頭に向けて投げた。
グサァッ!
無念と怒りを込めたその刃は、脳天ごと貫くようにして命を奪い、残った死体が馬から滑るように落ちていく。
「ヒィッ!」
リーダーを失い狼狽える烏合の衆に、鬼兵隊が畳み掛ける。
ワァァッ!
圧倒的な数の差はあれど、戦意喪失している天人など、動かない的に等しい。
この場で敵を全滅させることもできるが、それよりも……
「逃げる奴らは放っておけ!負傷者が優先だッ!!」
高杉は疲労で座り込む雅と意識のない銀時のそばにいた。
「何があった?他の奴らは……」
周りを見渡しても、援軍に向かったはずの味方は誰一人としていない。