第19章 友が為
「いくら人間離れしてようが、アイツも心に弱さを隠し持った1人の人間じゃ。あんな奴じゃからこそ、心に寄り添う薬が必要じゃろう」
「……何で…俺なんだよ」
口を少しもごもごさせ、まんざらでもないような態度を取った。
「別にわしゃ冷やかしてるわけじゃないぜよ。ただおまん、わしに掴みかかったことがあるじゃろ。雅のことで」
「!」
根拠地の寺で大掃除をする朝、173P目の頃である。
『商いで色んな者を見てきたワシからすると、アイツは並外れてるというか、まるで人じゃなく…』
『てめェ…まさかそれを“アイツ”(本人)に言ったんじゃねーだろうな…?!』
坂本が雅の底知れない強さに感心して、人か疑わしいくらいだと言ったら、高杉がそれに激高したのだ。
周りにいた仲間達はいつもの冗談だと聞き流していたが、
・・・・・
高杉だけは違った。
「あー根に持ってるわけじゃないぜよ。おまんは仲間に掴みかかるくらい、奴のことを真剣に考えていたんじゃろう?」
つまり、奴を想う気持ちがあの場で最も強かったのはおまんだ。
「それに、雅にとっておまんは信頼に足る仲間だと、頼れる幼なじみじゃと想っているのは明白じゃ。銀時とは喧嘩ばかりしゅうて怒ってばかりのおまんは、雅のことでは真剣に怒る。わしゃおまんのそんなところが好きぜよ」
「……」
高杉はそっぽ向いて、物思いに耽った。
(アイツの薬になれる?簡単に言ってくれるな。松下村塾から長い付き合いでも、名字すら教えねェ奴だ)
奴は自ら薬になるが、薬を欲することはねェ。
いつも他人の心配ばかり、医者としての顔ばかりしやがる。
特に何も言わず、悲しそうな横顔ばかり浮かべてやがらァ。
『……先生は私の家族を救ってくれて、弟も私も父上も母上も、みんな本当に幸せだよ。でも救った本人の先生が幸せじゃないなんて、こんな不公平な話ある?』
そういや、藍屋のあのガキはあんな的を当てたこと言ってたな。
奴は自分の幸せなんざ、これっぽっちも考えちゃいねー。
それくらい俺にも分かる。
他人を救うばかりで自分は救われることの望まねェ。まるでてめー自身に罰を与えているようだ。