第19章 友が為
「高杉?どうした?」
「……てめェはお気楽でいいもんだな」
嫌みったらしいことを言い放って、坂本に背を向けた。
顔を見られると何かと感づかれてしまうから。
坂本は商人という肩書きを持った詐欺師だ。人の顔色や言動から心情を伺うのはお手の物だ。
背を向けたものの、坂本はその言葉の意味合いをピンと察した。
「そうじゃのう。“わし”(商い)と“雅”(救命)じゃ、背負ってる重さは天と地の差じゃ。その覚悟の大きさもな」
「!」
「“わしら”(素人)じゃ入り込めん領域に、いつもアイツはいる。力になりたいと思っても、手も足も出ん。いつも思うぜよ。死にそうな仲間の前で、わしゃ無能だ」
高杉は振り返った。
「じゃから、わしらができるのは雅の力になるというより、ただ待つしかないんじゃないか?アイツが助けて欲しいと言う時まで」
「……」
高杉も坂本と同じような経験を何度もしてきた。
鬼兵隊の仲間が重傷を負った時、手を差し伸べたのはいつも彼女だった。
自分はそれを見守るだけ。
それか戦で敵を1人でも討ち取って、仲間を1人でも生き延びさせることしかできない。
それは雅もできることなのに、自分は棒切れを振ることしか能の無い奴だと。
雅を疲弊させているのは紛れもなく自分であるのに、何も出来ないのが口惜しい。
「……てめェだって、棒切れ振る以外にちゃんとした能があるじゃねェか。詐欺師野郎」
さっきのお気楽と言った謝罪を兼ねて、高杉なりに坂本のことを誉めた。
「まあわしはわしなりにうまくやってるつもりじゃが、おまんが一番いい薬じゃないか?」
「?」
薬?何の話だ?またいきなり飛躍させんな。
そう思っていたら、坂本はいつものようにニッと笑みを浮かべた。
「雅にとっての薬じゃ」
「!」