第19章 友が為
雅は意識を奮い立たせ、体に乗りかかっている大きな鉄の破片をどけて、起き上がった。
「ゲホッ…ゴホッ…!」
灼熱の炎の空気の中で、呼吸がしづらい。懐にしまってある手術の時に使う手拭いを口に当てた。
目の前に映る光景は、赤い炎に囲まれ倒れている仲間達。
焼け焦げた鉄の独特な臭いが充満している。
倒れている何人かはもう手遅れになっていた。
(銀時は無事か?)
奴の安否が何よりも気がかりで、奥へ進む。
「銀ッ!いるなら返事しろ!」
白髪だから暗い中見つけやすい。その真価よ発揮してくれと願いながら、何とか探し続ける。
「!」
陽炎で光景が歪んで見えるが、間違いない。
地べたで顔を伏せて倒れている銀時に、とどめを刺そうと武器を突き立てる魘魅の姿が。
「銀時ッ!」
雅は口を押さえる手を止め、刀を構えて一気に攻める。
それに気付いた魘魅は攻撃の手を止め、後ろへ下がった。
「銀ッ!銀時!しっかりしろ!」
呼びかけても応答しない。うつ伏せから仰向けに変えて、顔色を伺った。
(呼吸が荒い。この灼熱の業火の中だからじゃない。おまけに脈が弱まっている。まさか…)
「敵が目の前にいながら手負いの仲間を優先する。いくら死神でも、“己の使命”を重んじるか」
魘魅は背を向けた。
「貴様。まさか銀時に…!」
「だが…これで分かっただろう。貴様自身…運良く助かっても、貴様はもう…
・・・・・・・・
何も助けられない」
魘魅は壁に穴を開けて逃げ、その衝撃で、戦艦内に金属が軋む音が響き、次第に大きくなってきた。
炎もどんどん広がっている。もうすぐでここは、崩れ落ちる。
(すぐに脱出して手当てを…)
雅は意識を失っている銀時を肩で背負った。
(あ……)
炎の中で倒れている仲間に目を向け、苦い顔を浮かべる。
いつ爆発するか分からない今、私が担ぎ込んで助け出せるのは1人だけだ。
もっと助かる見込みがある奴が他にいるかもしれない。
でも、
・・・・・・・・・・・・・・・・
その中で迷いなく銀時を選んだのは、紛れもなく…
(私は……)
松下村塾で過ごした日々を思い出してしまう。
命は皆平等だ。助けるのに、ひいきはしてはいけない。
それなのに……
唇を噛んで、銀時の腕を握った。