第19章 友が為
「…ッ!」
私は、飛ばされたのか?背中を斬られた?
背中に手を伸ばしてみると、手先に血がついた。
(え…?)
足のつま先から上へ上へと脱力感がこみ上げる。そして倒れる。
顔を上げると、隠れ潜んでいた敵が不気味な笑みを浮かべる。
「我が術にハマったお前は、もう…助からない」
私の名前を必死に叫ぶ銀時の声が聞こえる。視界が段々暗くなっていく。
(ああ、ドジ踏んだ…)
私は意識を手放した。
銀時は魘魅相手に苦戦を強いられ、雅を仕留めた敵は加勢に入ろうと、雅に背を向けた。
(他愛のない奴だ。“死神”と呼ばれるからには手強いものだと思っていたが…)
「おい」
!
敵は背後からの衝撃で吹っ飛んだ。
(な、何……!?)
バカな!間違いなく蠱毒で死に追いやった。なのに、何故貴様が、そこに立っている!
雅が澄ました顔で敵を睨んでいた。
敵が受けた衝撃は致命傷で、雅はそれほどの深手を負わせるほどピンピンしている。
「き、貴様、何故…!!」
「…簡単な話だ。今まで得た情報を総合して、自分なりに蠱毒を体内から排除したまでだ」
排除だと…?!そんなことできるわけが…
「!」
雅の手には使用済みの注射器が握られていた。
「そ、それは…!」
「ワクチンじゃない。“仮死剤”、とでも言おうか。本来、安楽死に使うための薬だ。普段は絶対使わないが」
死ぬ薬だと?ならなおさら何故、生きている?
「私がアンタらが扱う蠱毒がナノマシンだってことに気付いたのには理由がある。普通のウィルスじゃ有り得ない現象が起きていたんだ。患者の体内でな」
最初は疑心暗鬼だったが、先日ようやく確証を得られた事実だ。
「蠱毒に侵され、最終的に亡くなってしまった患者の司法解剖をした時だ。体内に残っているはずのウィルスが、
・・・・・・・・・・・・・・
きれいさっぱり無くなっていた。まるでウィルス自体が意志を持っているようにな」
死んだ直後なら、患者の体内の細胞はまだ生きている。一般的なウィルスなら、まだそれらを蝕み続けるために体内に残っている。
だが、死体のどの器官にも、蠱毒のウィルスは見つからなかった。