第19章 友が為
同じ空間で熾烈な戦いが2つ繰り広げられる。
おぞましい魔力を秘めた呪札が無数に展開され、銀時と雅がそれぞれの戦いの場で、それらを斬撃ではじく。
魘魅の部下は青い死神を相手にしていた。
(この者……)
女相手にも関わらず、魘魅の部下は手こずっていた。
呪札を破られるだけでなく、その動きや刀の軌道が読めない。
(どういうことだ……)
青い死神は他の武士とは明らかに違う所がある。性別ではなく、戦う上で相手の誰もが抱く違和感。
雅は左利きだ。
相手が決まって右利きなら、刀の振り方やその軌道を読むのはできなくない。
だが左利きなら、振りが右利きとは逆になるから、慣れない戦いになる。
今まで右手の使い手との戦いの経験値が仇となるのだ。
雅は今まで何度もその独特な剣術で、敵を混乱させ、わずかな時間で相手をしとめる戦いをしてきた。
長期戦になり、相手が対左利きの戦いになれたら、厄介だからだ。
(すぐに終わらせて、蠱毒の情報を得る…!)
しかし雅もまた苦戦を強いられる。相手は呪術を用いる。反則術の持ち主だ。
下手に近付いて呪札が少しでも掠ればゲームオーバーだ。
(そしてここは薄暗い。窓を増築したいところだが、そうすればこの廃墟は崩れ落ちる可能性が…)
内側から戦艦を傷付けて穴を開けて、光が射し込むようにしたとしても、オンボロ船が形を保てなくなるのは想像に難くない。
敵はそれを見込んだ上でここにおびき寄せたのだと、雅はようやく理解した。
(銀時は無事だろうか……)
音だけだと、銀時の物らしき斬撃くらいしか、上の方から聞こえない。
それだけでも生きていることは確認できるが。
「銀時ッ!無事か!」
敵の呪札を避けながら大声を出した。
「……ああ!ちょっと…落ちそう…」
え?今、聞き間違いか?“落ちそう”って。
ドォンッ!
上の階の床に穴が開き、砂埃が舞いむせる。
「銀!」
上から銀時が降ってきた。
「イテテテッ。パズーみたいに受け止められるのは無理か」
いつも通りの間抜けな面とカッコ悪い着地の格好を見てホッとする。
雅はとっさに銀時と背中を合わせた。
魘魅が上の穴から降りてきて、挟み撃ちにされた。