第19章 友が為
心地いいそよ風が吹く。
「……ん」
ぼんやりと意識を取り戻し、頭の後ろらへんに温かい感触を覚えて、私ははっきりと目を覚ます。
「お、起きたか?」
そうやって後ろから優しい声をかけてくれたのは、私をずっと膝枕してくれた人。
よく見慣れた黒いコートを身にまとい、“先生”と呼ばれるには若い外見。
「せんせー?」
よいしょと体を起こして目をこすった。夕方の日差しが目に刺さってくるようで、いい眠気覚ましになる。
「いつの間にいたの?」
「さっきだ。外の空気吸おうとしたら、偶然お前が寝っ転がっていただけだ」
そんなことを言いながらも、本当は心配して来てくれたんだと、何だか嬉しい気持ちになる。
(寝てる間、一緒にいてくれたんだ…)
私はせんせーのあぐらの上にちょこんと座った。
「……お前に何かあったら、お前の母さんにどやされるからな。あまり遠くに行くな」
「はーい気を付けまーす。そういえば、せんせーは全然白衣着ないよね。医者の神器なのに」
「白だと太って見えるから嫌なだけだ」
「そんな理由?黒だと死神みたいで怖いよ。せんせーは立派な医者なのに」
「黒なめるなよ。俺にとって黒いコートが神器だ。夜遅く暗くなるまでお前を連れ回すことはないから、別に問題ない」
「そういう問題なの?」
他愛のない話をしながら、一緒に夕焼け空を眺めた。
「……ねェ、愁せんせー。前から聞きたかったんだけど」
「何だ?言ってみろ」
母の命の恩人であり、そのおかげで私は無事に生まれたから、私にとっての命の恩人。
そんな人の根源というものが気になっていた。ずっと前から。
「せんせーは何で医者になったの?」
「………」
返事が一向に来なく、振り向くとせんせーの困り顔が目に映る。
「ご、ごめん。やっぱり訂正しま…」
「「何でこんな大層な医術を身に付けたか?」だって?」
「!」
せんせーはいつものように、うっすらと笑った。
・・
「今は教えない」
・・
「今は?」
せんせーは私を膝から下ろし、私の小さな背に合わせてしゃがみ、頭を撫でた。
「お前が充分大きくなったら教えてやる。
・・・・・・・・
それくらいの覚悟ができてからだ」
その言葉の意味をその時の私は知る由もなかった。