第19章 友が為
「……甘い物は食べないようにしているから遠慮しておく」
昔を思い出してしまうからな。
剣を握ったことが無かった無垢の幼女は、先生のお土産の茶菓子をよく食べて、野菜も食べなさいとよく怒られていたな。
「それに仕事とプライベートは極力別にしているからな」
「相変わらず固ェ奴だな。もうすぐバレンタインだからいいじゃねェか」
「いや、それだったら私があげる側のはずだが」
銀時はチョコレートをおいしそうに口にして、雅はその横顔を眺めた。
(相変わらずマイペースで、何を考えているか分からん奴だな)
本来ならお菓子を控えろと忠告すべきなのだが、今は怒る気になれない。
共に戦う前に喧嘩の空気を作りたくないしな。
「チョコレートあげたついでに、ちょっとやってほしいことがある」
「いや貰ってないよ。私が断ったけども。で何?」
「ちょっと笑ってくれよ」
「?」
「お前の笑顔全然見ねェからよ。ちょっと見せてくれ」
「急にどうした?」
お調子者の坂本に言われるのなら分かるが、銀時にそんな頼みごとをされるのは初めてだった。
桂や高杉にも心配される一方、銀時は特に雅に干渉しない。
松下村塾にいた頃から、彼女の独立独歩の性格を読んでいたから。
「そのチョコレート、アルコール入りだったのか?酔ってるのか?夢主あるある笑顔で心開く的な展開求めているのか?」
「いいからやってくれよ。松陽みたいにニッコリとな。もしかしたら今日しか頼めなくなるかもしれねェしよ」
「……」
雅はため息をこぼした。
(私はマックの店員か?コノヤロー)
心の中でそう思いながらも、今までやったことがないくらい口角を上げてみた。
松陽のあの目を閉じた優しい笑顔。あれは心の内も優しい人ができるものだ。
雅は自分が穏やかではない性格だと自覚しながら、表面だけでも優しい人の笑顔に似せた。
松陽みたいににっこりと、目を閉じた優しい笑みを銀時に向けた。
「……これで満足か?」
しばらくして目を開けると、予想に反して銀時は苦い顔をしていた。
「何、そんな顔してるの…」
頼まれて柄でもない顔になったのに、どうしてそんな顔するの?
笑顔を向けられたとは思えないくらい、元気がないじゃないか。
「……やっぱお前、似てんな」
「は?」