第18章 帰ったらまず、手を洗おう
(こ、コイツは……!!)
戦争真っ只中の、しかもこんな夜の山中に女がいるわけがない。
しかし男は“ある1つの例外”に心当たりがあった。
戦いの地で、遠くから見たことがある。女とは思えないほど強靭な戦いぶり。
周りより一回り小さいその体で、何人もの首を切り裂く。
月明かりで僅かにその姿を目にした。
青い髪色に翡翠色の瞳。一切の隙を見せない冷酷な表情。
明らかに刀の腕は、並大抵のものではない。
侍というより、殺しを熟知した暗殺者のようなもの。
戦場にいる奴が医者とは信じがたい。
後ろにいるソイツは刀を鞘から少し出し、静かに声をかけた。
「もうお前の仲間達は私が殺した」
「……卑怯だな。真夜中にこんな不意打ちで容赦なく殺すとは。噂通り、武士の風上にもおけん冷酷な死神だな」
男は笑い混じりで女を挑発した。
侍とは、相手と刀を交え、正々堂々と戦うもの。それがたとえ幕府だろうが反乱軍だろうが。
不意打ちで相手を抹殺するのは、侍が使う手ではない。
「……それはこっちのセリフだ。お前ら…うち(反乱軍)のところに、
・・・・・・・
何をばらまいた?」
女は怒り混じりで男の背中に問う。
「む?何の話だ?」
「……お前、幕府軍の中でもかなり地位の高い奴と見受ける。なら、アンタらの親玉の“陰謀”とやらも、知っているはずだろう?」
女はこの薄暗い中でも、男がそれなりの地位にいることを見破っていた。
そのオーラや指揮官として他の仲間を引き連れていたところを、木の上から観察していた。
だから、手下である他の仲間を先に殺した。
「最近、うちの方で病人が急激に増えている。見たこともない症例だ。重症患者の中には、髪が白くなっている奴もいた。死亡者も出た」
女は淡々と男に分かりやすく説明をした。刀を持ったまま、殺気を一切緩めずに。
「どう考えても、地球の病原体じゃないんだ。明らかに
・・・
天人が持ち込んだものだ。つまり、
・・・・・・・・・
天導衆と組んでいるお前ら幕府軍が、巻いたものとしか考えられないんだよ」
女の口調は明らかに段々と感情的に、怒りがこみ上げていた。
そして震えていて、微かに動揺を秘めている。
(仲間を失っただけじゃない。私はお前らのやり方に憤慨しているんだ)
それくらい、“今回”はとても恐ろしいものだと予期していた。