第18章 帰ったらまず、手を洗おう
周りの隊士達は、心配そうな眼差しでその状況を見ている。
見ているだけしかできないことを悔やむ者もいた。
心臓マッサージをされている男は全く目を覚まさない。
雅は高杉と入れ替わり、救命道具の電気ショックを与えるが、それでも男は目を覚まさない。
しばらく交互で繰り返した。4回目ほどで、雅はゆっくり手を止めた。
息を整えてから、男の首元にまた指を当てた。そして静かに首を横に振る。
その場にいる誰もが、その意味を悟った。
高杉は突然死した部下を失った。
「雅……」
高杉は名前を呼んだが、彼女は顔を伏せたまま立ち上がり、歩き出した。
隊士は道を譲るよう後ろに下がり、彼女が向かった先には桂がいた。
すぐ隣に来て、耳元にささやくように小さな声で言った。
「今すぐ遺体を拠点に運びたい。一旦戻って、体制を立て直したいが、できるか?」
「!」
全く動じてない声色で、軍の指揮官である桂に提案した。
隊士の謎の突然死。髪が白くなった。他の体調不良の仲間も、同じ病にかかっている可能性が大きい。
そのことを考えると、この場に留まるのはマズいと判断した。
幸いここは、拠点である寺からさほど遠くない場所であるため、薄暗い夜でも歩いていけば30分もかからない。
「これは私の責任だ。他の隊士達のためにも、頼む」
「……ああ。俺も同意見だ」
桂は少しの沈黙をおいてから、彼女の意見を尊重する意を示した。
仲間の急死で、全員が不安に陥っている。
さっきまでは憩いの時間だったのが、尊い仲間が犠牲になり、事態は急変した。
翌日の戦に臨むより、今回は戻った方がいい。
(しかしさすがだな。声も態度も全く動揺を見せない。死に直面したにも関わらず、冷静に俺にこんな話をできるとは…)
他の隊士は突然の仲間の死で、精気が消失しているのに、彼女は冷静に状況判断している。
これが、幼い頃から医術の手ほどきを受けてきた者の強さというのか。
敵には冷酷と呼ばれるほどの死神…か。
桂は雅の言った通りに皆に指示をして、退散命令を下した。
無くなった隊士を担架に乗せて運ぶ。
しかし雅は、皆が行く道の反対方向に進んだ。
「雅?」
「先に行っててくれ。私はここに少し残って、調べておきたいことがある」