第18章 帰ったらまず、手を洗おう
「雅さん!!」
薄暗い中、向こうから隊士の大声が響く。
雅は高杉の膝から反射的にガバッと起き上がり、刀を持った。
寝起きとは思えないほど迅速な動きだ。
「何?どうしたの?」
高杉は楽しい一時からすぐに切り替えて、立ち上がって彼女の後ろについた。
「そ、それが、お昼に体調不良を訴えた隊士が、きゅ、急に悶絶して…」
相手が動揺で言葉がうまく発せれないのを、雅は「落ち着け」と声をかけて冷静にさせる。
その患者の元へ急ぎながら聞いた。
「具体的な症状は?」
「急に、髪が白くなって……」
(え、髪が?)
聞いたことがない症状。それも、急に髪の色が変わるなど。
それほど命に関わるものなのかもしれないと、雅は一秒でも速く着こうと足を速める。
高杉だけでなく銀時達3人も彼女に同行した。
現場に着くと、事態は雅の予想以上になっていた。
1人の隊士が胸のあたりを抑えてもがき苦しんでいる。
(この人、鬼兵隊の…!)
教えにきた隊士の言う通り、髪は毛先まで白くなっていて、水揚げされた魚のようにじたばたしている。
雅は首元に指を当てて脈を計り、胸に手を当て心拍も確認した。
(弱まっている…!!)
馬鹿な!20分前までは正常だったのに、何でこんな急に悪化を…
このままだと心停止になる。
原因が分からないが、それを考えるより、隊士の延命措置をするのが優先事項だ。
雅は心臓マッサージを始めた。
(頼む。戻ってきてくれ…)
「三郎はいるか!?」
鬼兵隊の隊士の1人の名を呼んだ。
機械に強く、雅と共同で医療用具を作ることがある者だ。
雅は駆けつけてくれた彼に救命道具を持ってくるように頼んだ。
今の時代でいうAEDのようなものだ。
「はい!持ってきました!」
スイッチを押してから使えるようになるまで、十数分ほどのインターバルがある。
一刻も早く機械を作動させなくては。
雅が心臓マッサージを誰かに変わってもらおうと声を出そうとしたその時。
「代わる」
高杉が彼女の肩に手を置き、そして場所を入れ替わった。
「頼む」
雅は救命道具に手を付けた。