第18章 帰ったらまず、手を洗おう
(箸を持つよりメス、なんてね…)
せんせーのあぐらの上に座って、ほんの読み聞かせをしてもらったこともある。
医療本だけでなく、ちゃんと年相応に絵本も。
題名は確か、「百万回死んだ猫」だったか。せんせーが一番好きな話だったな。
そんなことを懐かしみながら、私は話を続けた。
「幼くても、自分なりに病弱な母の手助けがしたかったんだ」
「ほぉ~母親想いじゃのう」
坂本は感心の声を上げた。
その一方で、銀時は何か引っかかることがあるような、もやもやした気分のような表情でいた。
(雅の師匠は、コイツが
・・・・・・・・・・・・
将来どれほど危険に遭うかを想定しなかったのか…?)
コイツの腕は計り知れない。
内臓にぶち込まれた弾丸を精巧な手術ですぐ取り除いた。
切断された腕の神経をつなぎ合わせた。
毒を入れられても、すぐに解毒した。
この時代ではあり得ないことを平然とやってのけてきた。
そんな技術を持ったその師匠は、間違いなくただ者じゃねー。松陽のような化け物じみた力を持っていた奴だ。
松陽と幼い頃からずっと過ごしていた銀時は、そんな確信を持っていた。
(そんな大層なもんを、何で
・・・・・・・・
コイツ1人にだけ背負わせた?しかも、まだ幼かった)
今のお前の存在は、幕府にとっちゃ目の上のたんこぶ。
この先の戦、命がいくつあっても足りないくれェ一番苦労するのは、お前だ。
(もしコイツが医術の道に入らなければ、いつも戦場と手術室で血みどろになることはなかったかもしれねーのか)
雅は、戦で心を抑制している。自分の気持ちを捨てて、誰より死神になっている。
皮肉な話だ。そんな師匠から人を救う術を叩き込まれ、今では人を殺している戦場でその力を使っているんだからな。
(本当に一体何者なんだろうな。コイツの師匠ってのは…)
「もう寝る」
雅は眠くなり、体を横にした。刀を抱えたまま、ゆっくり目を閉じた。
夜中に奇襲されてもすぐに戦えるよう、武器を手放さない。
(……)
そんな姿を見て、銀時はますます心の中がもやもやした。
「……なー高杉。雅眠りにくそうだから膝枕でもしてやれよ」
「は?」