第18章 帰ったらまず、手を洗おう
(せんせーがあれほどまでに渡すのを拒んだ代物だ。それが何で、幕府側に知られているんだ…?)
母さんは幕府のお家の生まれだけど、命の恩人である人の大切な物を売るなんてこと、絶対にしないはず。
何より、破門の身であるから幕府にそんなまねできるわけがない。母さんは絶対違う。
じゃあ誰が……
「!」
ガバッ
雅は急に起きあがった。
「雅?」
桂は少し驚き声をかけるが、彼女は口を開けたまま声が出ず、脳裏に“ある男”がよぎった。
思い当たる人物が、
・・・・・・
1人だけいた。
(ま、まさか……)
「おいどうした?」
「!」
高杉が後ろから彼女の肩を軽くたたいた。
「雅」
「……いや、何でもない」
一旦落ち着こうとまたゆっくり腰をかけて、平然を装う。
高杉は彼女の様子がとても気になった。
「……なあ、俺からも聞いていいか?」
「!」
桂の次は、銀時が声を上げた。
(珍しいな。銀が私に質問なんて…)
雅はそう思いながら、何だ?と聞いた。
この流れ、何だかテレビ番組の質問コーナーのようだ。
「お前が医者を志し始めたのは、いつぐらいなんだ?」
「!。何でそんなことを…?」
「お前の腕はすげーよ。なのに俺よりちと年上くらいに若ェ。俺がお前に出会ったのは、お前がまだ11とかそんぐれーのはずだ。相当幼い頃から仕込まれてたんじゃねーかってな」
「……ああ、そうだったな」
少し肌寒い雨の日。寺の廃墟で用を足しに来た銀髪のガキ。
よく憶えているよ。
「……」
高杉は彼女の横顔を眺めた。
「……3歳だよ。メスを初めて持ったのは」
『!!?』
3歳といえば、しまじろうでぬいぐるみごっこするくらいの年だ。
お医者さんごっこならまだ分かるが、明らかに刃物持つ年じゃねーだろ。
ここにいる4人は、同じようなことを同時に頭に浮かべた。
“3歳”という概念が狂ってきた。
「それからずっと鍛錬していた。日常生活でも、醤油より血に馴染みがあったな。あ、でも子供なら醤油よりソースの方が好きか。私は醤油派だったが」
彼女の口からはとんでもないワードが飛び出てきた。
まるで醤油さしを誤って傾けすぎ、ドバッと出してしまった時のように、唐突に。