第18章 帰ったらまず、手を洗おう
雑談はいつものような口論へとヒートアップしていき、「鬼兵隊は中2病臭い」なんて話題に変わった。
「そんな恥ずかしい呼ばれ方する位なら珍走団を名乗った方がマシだね」
「珍走してんのはてめェだけだろ」
「いや、わしのチン○もほとばしっとるぞ」
「どさくさに紛れて何言ってんだてめェ!しかも女の子がいる前で!」
銀時がそう指摘すると、3人は彼女の背中に注目した。
「……ん?」
化学式に没頭し過ぎて、彼女は数秒ほどの間を空けて、背中に突き刺さる視線に気付いた。
「え、何?」
「いや…聞こえなかったのか?」
「聞こえても聞こえてなくても、どうぞ気になさらず続きをどうぞ」
雅は地面に書いた文字を全て消した。
「雅。何を書いていたのだ?」
桂は尋ねた。
「別に。ただの気まぐれさ」
それだけ言って、高杉が乗っている大岩の元に腰をかけ、寝る体勢になった。
「ああ雅。さっき官軍について話してたが、おまんは興味ないか?」
「官軍?」
(!)
高杉はこの時、彼女の出生について思い出した。
彼女の母は、確か幕府の由緒正しきお家の生まれ。
そこでどこの馬の骨とも知らない男と駆け落ちをして、それで生まれたのが彼女だと。
それで幕府に勘当され、裏切り者とされたと言ってたな。
(それを考えりゃ、雅が官軍なんて……)
「……死んでも嫌だね」
高杉の読み通り、まるで大和○みたいな返答をして、雅はゴロンと寝返りをして、背中を向けた。
何だか重たい空気になってしまった。
「何じゃ?公務員も銀行員も嫌か?おまんほどの実力者なら、国を支える礎になれると思うが」
その中でも坂本は笑顔を絶やさず、気さくに彼女に問いかけた。
坂本も考え無しではなく、彼女の身を案じて、その方がきっと安泰でいられると思っていた。
仲間達に別れも告げず遠いところへ行くより、その方がいいのではないかと。
『この戦が終わったら、遠い場所へ行く。アイツらとは、全くの別の道を行く。このことは他の奴には絶対言うな。無論、晋助たちにもだ』
彼女に頼み事をされた坂本は、今でも彼女のその覚悟が心の奥底に突っかかっていた。