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君想ふ夜桜《銀魂》

第18章 帰ったらまず、手を洗おう



彼女がこの先誰にも決して言わない出来事。

かつて、年下の少年の顔を忘れられないほど、想い焦がれることがあった。

医術の鍛錬で死体をずっと相手にしてきた影響で、生きた他人を見ても、心が動くことはなかった。

でも、その少年に対しては違った。

言葉は全く交わさなかったが、彼女は心に響くものを感じた。

それを端的に表すなら、“恋”。

彼女にとって初めての体験。初恋だった。


その後、彼女のせんせーは奈落によって追われる身となり、彼女の前から姿を消した。

彼女は師の後を追うために、病弱の母を置いて、1人で行ってしまった。

母親はその隙を付かれ、奈落によって斬首刑を執行された。

美しかった母親の顔が醜く飾られたあの光景。今でも彼女は忘れていない。

通りすがる誰もに二度見されるほど美しい母親。その人の首が、橋の上の見物人によって晒し者にされた。

雅は一度に二つの愛を失ってしまった。

故に彼女は、愛というものを感じることができなくなってしまった。

いや、以前のように誰かを愛することを、拒むようになってしまったというべきか。

自分の愚かさと弱さに絶望し、身も心も大きく歪んでしまった。


そして数年が経ち、運命のいたずらなのか、松下村塾でその少年と再会した。

少年は覚えてなかったが、少女はしっかり憶えていた。

出会ったときのこと、昔抱いた感情を。今もずっと憶えている。

だがそれはあくまで記憶としてで、昔のような本質を持っていない。

いわば“それ”は、形骸化した愛に成り下がった。

元々持っていた二つの愛を同時に失ったことで、今の軍医雅は、昔の__雅に戻ることはない。

彼女は自身でそう思った。


雅はそんな昔のことを言う気はなく、銀時に軽率に言った。

高杉が好きだと。

(何でコイツにそんなこと言ったんだろうな…)

ごまかせばよかったのに。何で今更……

「知らなかったぜ。お前がそんなこと思ってるなんて。お前は今までアイツとは特に…」

「私は特別扱いされるのも、また
・・・・
するのも苦手だからな。たとえ
・・・・・・・・・・
自分の心の内にとって、“大切な存在”だとしても」

彼女の眼差しは荒れ果てた戦場に向けられていた。

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