第18章 帰ったらまず、手を洗おう
銀時はチョコを地面にたたき落とし、同色の茶色に馴染んでしまった。
「人の好意をそんな粗末にするな。久しぶりのチョコがそんなに嬉しかったか?」
「お前の糖分の感覚がもっとマシなら嬉しかったよ!何で90%?!普通のスーパーにも売ってないよねコレェ!」
雅が取り寄せたのは中々手に入らないハイカカオのチョコレート。
商人の辰馬でもやっと手に入れた代物だった。
「モチベーションを上げるつもりが逆に下がってしまったか。いや、そんなに元気なら心配する必要はなかったか…」
「俺を満足させる代物を用意したかったら、もっと甘々の奴用意しろよな」
銀時はチョコレートを拾い上げ、手持ちの砂糖をかけて口に入れた。
「それじゃ意味ないじゃないか」
「いいんだよ。それよりお前、朝から元気ねェな」
「……」
さっきまでのふざけた会話とは一変して、雅の横顔は曇った。
「お前。今日は戦に出ない日だろ。どうして…」
「……こっそり潜った」
「なるほど。相変わらず可愛らしくねェ女だな。お前」
「褒め言葉として受け取っておこう」
銀時の言葉に淡々と返事をして、瞬き一つもせず、ただボーッとしている。
彼女がそういう時は大体、何かを思い詰めている時だ。
雅とは一応長い付き合いである銀時には分かった。
「お前がこんな戦場にチョコレートなんて
・・・
普通は持ってこねーはずだ。何かあったのか?」
「……他の隊士達には言うな。恐らく
・・・
今回は、混乱を招くようなヤマかもしれんから」
雅は青い陣羽織の懐から、一枚の手書きの紙を取り出した。
雅自身が書き上げた、仲間の負傷者のリストだ。
「アンタも知っていると思うが、最近体調を崩す隊士が多い」
「ああ。寒くなってきているから風邪かと思っていたが…」
雅の深刻そうな表情を見る限り、そんな軽い事態ではなさそうだ。
・・・・
「普通なら、私が調合した風邪薬で治る
・・・・・
はずだった。だけど……
・・・・・・・・
全く効かないんだ」
雅にとって初めてだった。治せない風邪など。