第18章 帰ったらまず、手を洗おう
過去に戻って、身も心も幼かった“ソイツ”(私自身)の顔をまずぶん殴り、そして罵声を浴びせたい。
『お前の弱さのせいで、全てを失うんだぞ』と。
それができればきっと、
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全てを失わずに済んだだろう。
雅と辰馬は、相反する性格だ。
彼女は冷静でかつ冷たいことも言う。
たとえ現実的かつ効率的なことでも、人の心よりも戦を優先する。
だが、彼女の心の内には、もっと違う意味も秘めていた。
かつて、私が何もできなかったようになってほしくない。
辰馬に自分の二の舞を演じてほしくない。
かつて自分が母も師匠も自分の尊厳をも無くしたように、辰馬にそんな思いをしてほしくない。
辰馬の性格を考えたら、そんなの無理な話かもしれない。
だが心を鬼にしてでも、辰馬にはこの戦で生き残ってほしい。
自分の甘さのせいで、大切な人たちを奪われたような、そんな残酷な思いをしてほしくない。
雅は内心そんな思いを秘めながら、拠点である寺をあとにした。
しかし皮肉にも、雅のこの忠告は、後に現実となってしまう。
辰馬は、半年と経たないうちに、傭兵である馬董に遭遇し、右手首に深手を負ってしまい、二度と剣を握ることができなくなってしまうのだ。