第18章 帰ったらまず、手を洗おう
本物の死神?
雅は首を傾げた。
「さすが、相手の心を掴む回りくどい言い方が好きらしいなァ商人は。つまり「死ぬな」ってことか?」
「それもあるが、わしにはおまんがいつも無理しているように見えるんじゃ」
ピクッ
雅は辰馬の言葉に反応した。
その言い方がまるで、自分に過干渉しているみたいで、ちょっとした不快感を覚えた。
「なぜそう言うの?そんなに私が疲れているように見えるの?」
雅は低い声で坂本に問う。
「おまんが敵に“死神”と呼ばれているのは、いや、
・・・・・・
呼ばせているのは、相手の心に自分の恐怖的な存在感を植え付けるためじゃろう?」
「……つまり、“死神”と呼ばれているのは、私の本意ではないと、そう言いたいのか?」
坂本は黙って雅の目を見据える。
「わしゃ、おまんが心配じゃ。敵に何度も呼ばれているうちに、本物になってしまうんじゃないかと…」
「それは恐らくDEATH N○TEの見過ぎだ。どんなに世界がひっくり返ろうと、私の背中に黒い翼は生えることはないから安心しろ」
「…ま、それもそうか」
坂本はアハハハハとまたいつものでかい笑い声を上げる。
「とにかくわしゃ、おまんが戦を終えた頃には、ただの人間に戻って欲しいだけじゃ。今は戦のために“死神”になりきっていても、殺しで血塗れた手をすすいで、今度は人を救うためだけに、その腕を振るって欲しいと、わしゃ願ってるんじゃ」
「!」
坂本は高い身長から雅の頭にポンと手を置いて優しく撫でた。
「おまんは冷血なんかじゃない。本当は優しい人間なのは知っているぜよ。だから戦が終われば、少なくとも、もうお前を冷血な死神と思う奴は、今よりもいなくなるはずじゃ」
「……」
ああ、さすが人の心をうまく誘導できる商人だな。
今こうして頭を撫でられても、不思議と悪い気にはならない。
私達反乱軍は幕府軍に比べて戦力は天と地の差なのに、アンタのおかげでこの戦を長期戦に持ち込める理由が、今になって分かった気がする。
(でも、
・・・・・・・・・・・・・・・
1つだけアンタは間違っているよ)
私は
・・・・
初めからアンタが言うような“人間”じゃないさ。
雅は頭の上にある辰馬の手を払った。