第18章 帰ったらまず、手を洗おう
戦が終われば、皆、己の道を行くはずだろう。自分の幸せのために、自分の好き勝手に生きるだろう。
辰馬。アンタは宇宙を跨いで、商いをやる。
桂は、この国のためだとかどうとかで、堅苦しいことばかりをやるだろう。
銀は、甘いものばかりを食べながら、のほほんと暮らすんじゃないかな。
だがアイツは優しいところもあるからな。仲間がピンチになったら、駆けつけてくれるのかもな。
高杉は、松下村塾の卒業生として、そこで弟子達の稽古とかしてそうだな。
私からすれば、アイツはまだ大人じゃない。
年齢的なことだけではない。
アイツは、松陽を取り戻すことを誰よりも望んでいる。銀にとって親も同然もあの人に、誰よりも親しんでいる。
あの人を取り戻すことができれば、自分は死んでも構わないと、そう思っているだろうな。
(私はそうさせないために、ここにいるんだけどね)
松陽との約束だ。“仲間を護れ”と。
坂本はしばらくして、モサモサの頭をかいて、「参ったのう」と呟いた。
「おなごのおねだりに逆らえんのが、男のさがじゃな」
誰よりお人好しで誰より大きく笑いながらも、免許皆伝の使い手、桂浜の龍。
そして相手の心を掴むカリスマ性を持つ詐欺師。
よく言えば、相手の気持ちに寄り添うことがうまいのだ。
実を言うと、坂本は雅に対して、同族意識を持っていた。初めて出会った時から。
辰馬は今は攘夷志士として戦っていても、本業は商人。
雅もまた同じ。本命は、相手を斬るばかりの侍ではなく、人を救う医者だ。
攘夷志士はあくまで、副業みたいなものだ。
だから辰馬は、雅が医者として本来やるべきことがあるのだと、察することができた。
「いいじゃろう。この戦が終わったら、お前のその幸せの道とやらに付き合ってやるぜよ」
そう言って辰馬はニカッといつもの清々しい笑みを見せ、雅は「相変わらず愉快な奴だな」とため息を漏らした。
「ただし、間違えても
・・・・・
本物の死神になるなよ」
「?」