第18章 帰ったらまず、手を洗おう
私は新品の髪飾りを目の前に持ってきた。
太陽の光に照らし合わせて、その輝きをじっくり眺める。
桜の花びら一つ一つが精巧に作られている。色合いは濃すぎず、本物の桜のように淡い桃色だ。
これを作った職人は、かなりセンシティブな人だったのかもしれない。
決して仕事に手を抜かず、何度も心配になりながら技巧を重ねて、自分が納得するまでこの傑作を作った。
いかに丁寧に仕上げたかがよく分かる。
(確か、桜の花言葉は、“美しい雅な女性”。“凛々しい”…)
フッ…
思わず笑ってしまった。自分に似つかない花言葉だから。
(私は美しくなんかないよ……)
「そうじゃそうじゃ。ちなみに他に欲しいもんはあるか?わし個人からの贈り物じゃ」
坂本は自分を指さして、いつものような屈託のない笑顔を浮かべた。
「……以前言ったな。「私の幸せに繋がるなら、宇宙に行くのに協力してやる」と」
遡ると、坂本と他の仲間と戦場に赴いた時のことだ。
夜の見張りの時に、私は坂本にお願いした。
「私がアンタから欲しいものは“それ”だけだよ。前はちゃんと了承してなかったからな。アンタ」
「……そんなに大事なことなのか?アイツらに内緒にするほどのものなのか?」
坂本はキリッとした顔で私に問いかけ、その表情は真剣さを物語っている。
「内緒にするっということは、おまん、まさか……死にに行くのか…?」
「……」
坂本は低い声で問いかけてくる。
「とうに“死神”と呼ばれている私にとっちゃ、もう死んでいるも同然だけど……だが、命を懸けるほど大事なことだよ」
正直に話すことで、自分がどれほど真剣なのかを坂本に伝えた。
私にはやらなきゃいけないことがある。どうしても見つけなきゃいけないものがある。
そのためなら今以上に地獄に堕ちて“死神”になる覚悟もある。
「……じゃおまんは…戦が終わったとしても、戦い続けるのか?自分の幸せのために」
「……そうだ」
悪いな辰馬。頼んでおきながら、私の目的をちゃんと言わなくて。
でも分かってくれ。私は
・・・・
このまま、のうのうと生きる気はない。