第5章 人は皆 十人十色
“翡翠”とは風波を静める力を持つ神話の鳥。また、小さな鳥の“カワセミ”のことをさす。
この戦場でひときわ皆の目を奪う、“宝石”のごとく輝かしい存在。
多くの命を救ってきた雅は、皆の希望だ。
他にも呼び名はあるが、巫女とは生者と死者の間のつなぎ役。
医者の雅には相応しい名だ。
そして彼女の瞳は鮮明な緑、翡翠の色だからそう呼ばれているのでもある。
(雅…!)
敵が多すぎて、なかなか援護に行けない。
桂の思った通り、雅は苦戦してた。
十数人は仕留めたが、まだ敵は押し寄せてくる。
ガァンッ!!
体格差が歴然の天人相手に刀を交えたが、力の差で刀が弾き飛ばされた。
「たかが女ごときがァ!」
この好機に天人は斬りかかった
それでも、雅は冷静さを欠かない。
瞬時腰の小刀を抜き、敵の懐に入り急所に突き刺した。
返り血が頬に飛び散り、敵はぐったりしてそのまま倒れた。
死んだことを確認したら、小刀に付着した血をはらい、弾き飛ばされた刀を拾って体制を立て直した。
(他に敵は… !)
向こうを見ると、いつ襲われてもおかしくない、負傷兵を担いでいる仲間がいた。
雅は敵を斬り払って駆け寄った。
「その人は?」
「血が…止まらないんです!」
「う…」
呼び掛けると、負傷した人はうなり声をあげた。
(意識はまだある。しかし出血量からすると、かなり時間が経ってるな)
その人の胸に手を当て心臓音を確認するが、弱まってる
(早く処置を…)
敵は目前に迫ってきている
動ける人の方もかなりの傷を負ってる
むしろ、1人担ぐのもやっとくらいだ
なら…
「私が時間を稼ぐ。その隙にその人を連れて逃げて」
「雅さんは?」
「その人はまだ助かる。私もあとで向かうから先に行って」
これが、今やるべき行動
「し、しかし…!」
「敵1人残らず打ち取れェ!」
話す余裕もなく、天人は襲ってくる
「行け」
刀を構えたその時…
ズサァ!!!
一瞬で天人たちが斬られた。
「!」
いきなり誰かが私たちの前に現れ、天人から守ってくれた。
見覚えのあるその背中は…
「し、晋助?」