第5章 人は皆 十人十色
志士は雅が天人に囲まれた状況に慌てた。
「まずいですよ桂さん!すぐに加勢しましょう!このままでは」
一方雅は敵を前に刀を構えた。
用心してるのか敵は攻めてこず、取りあえず一呼吸して心を落ち着かせた。
この緊張感にこの無音
テスト開始チャイム直前の試験会場にいる気分だ
戦場はいつ死ぬかなんて、結果は誰にも分からない
今死ぬかもしれない
腕を切られて、おにぎりも もう作れなくなるかも
いや、腕だけじゃ済まないかも
けど、まだ死ねない
成し遂げたいことがあるから…
スゥゥ
ゆっくり刀を抜き、目を見開いた。
雅は勢いよく地面を蹴り、真っ向から敵に向かった。
「雅!」
まずい…援護に行こうにも、こっちも目の前の敵陣に手一杯だ
「邪魔だァ!」
桂は早く雅の元へ行かんと敵を斬った。
雅の凄みは、腕だけじゃない。
自分よりも圧倒的に体が大きい相手でも、力の差がある相手でも心も動きも決してぶれないその志だ。
動きや反射神経も周りに比べピカイチ。勘所もいい。
そして何より、昔高杉が雅に苦戦した理由の1つが、
雅は左利きである。
それを含めた、独特の剣の腕は誰もが苦戦する。
天人らもその素早い動きや刀に苦戦した。
少しでも隙があれば、真っ先に狙い斬り込む。
ズサァ!
雅は心臓部に刀を刺し、天人は武器を手放しその場で倒れた。
(思ったより数が多い)
後ろを見れば、敵が迫っている
(これ以上増えれば流石に…)
「どこを見てんだァ?!」
後ろによそ見してた雅に、天人は不意打ちの攻撃を仕掛けた。
しかし雅はあっけなくスッと攻撃をよけ、背後に回った。
「アンタらの死角さ」
風のように、次々に天人らを斬っていった。
医者の雅は人間ももちろん、天人の体の仕組みも分かる。
どこが急所で、どうやれば即死するかも。
(雅…)
桂は悪戦苦闘しながらも、遠くの雅の戦いっぷりを見た。
その女 小さき体に鳥のごとき鋭い目
あまたの屍を生んでは、あまたの命を救う
そんな彼女につけられた名は…
“翡翠(ひすい)の巫女”