第18章 帰ったらまず、手を洗おう
女の存在を軽くあしらわれる世の中だから、女は目立つことは何もせず、ただ家の中で子供の世話をしていればいい。
そんな古典的な思想の持ち主だったが、雅の女でありながら凛々しく生きるその姿に感服した。
女房を護るのは、世間の目に止まらぬようただ家に留まらせるだけではないと学んだ。
だから藍屋勘には、雅に返しきれない恩がある。
『あの方の生き方を否定する気はありません。ただ私は恩人の幸せを願っております。あの方が一つの幸せの形を掴むきっかけがあればと思って』
雅は女でありながら、医者であり戦に身を置く攘夷志士。
普通の女の幸せとは程遠い。
しかし、彼女にはこの先の人生がある。
どんな生き方をしようとそれは彼女次第だが、誰か素敵な方と人生を歩む幸せもあることを知ってほしい。
『いつか戦が終わったら、ぜひ渡していただきたい。あのお方にこれを』
藍屋勘は木箱に収納されている着物に視線を向け、高杉もつられた。
『今はあなた方はお国のために戦っていますが、きっと戦が終われば、あのお方もきっと、自分の幸せをかんがえるはずです。ですから、その時に…』
『……分かった。戦が終わったら、俺は再びこの店に来よう。そしてこの着物をアイツに渡す』
とこんな感じで、高杉は約束して、現在に至る。
高杉にとって、昨日の出来事はこの先一生忘れられない素敵な思い出になる、という確信があった。
理由は、彼女を慕う人がいた事実を知れたから。
戦では死神と揶揄されて、仲間にも少し怖がられているが、それでも彼女の内面を理解して、彼女に心から感謝している者達に出会えた。
高杉はそれがとても嬉しかったのだ。
(戦が終われば、奴は
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死神でいる必要がなくなる。ただの1人の人間としての人生を歩めるはずだ)
女医は確かに普通じゃないが、この先の未来で受け入れられれば、普通になる。
奴のすげェ腕ならきっと理解されるはずだ。あの藍屋みたいに。
(戦に勝ち、松陽を救い、やるべきことを終えた後の俺でも、奴がいればきっと……)