第5章 人は皆 十人十色
「そろそろ出陣だ!」
桂の一声で、一気に場の空気が緊張に変わった。
「それじゃあ雅さん。ご武運を」
「ああ。そっちも」
隊が違うので、黒子野とはここでお別れ
銀時、桂、高杉、辰馬の4人は先陣に出た。
私は腰にある刀を一寸ほど抜いてすぐ戻した。
※これは“金打”(きんちょう)といい、武士が誓いをたてる時にやる儀式みたいなもの
門が開き、私たちは戦場に向かって前進した。
(いよいよか)
戦の始まりだ
〈戦場〉
ガキィン!
『うぉぉぉぉぉぉ!!!』
刃が混じり合う音
叫び声にうめき声
敵のものか味方のものなのかも分からない、無数の血の痕
戦は佳境だった
侍たちは必死に天人に立ち向かう
その中に今にもやられそうな志士がいた。
ズサァッ!
「ぐっ!」
迂闊にも右肩をやられた。
なんとか流血を抑えようとするも、敵の天人数体はその隙に斬りかかってきた。
(クソォ!ここまでか…)
諦めかけたその時…
グサッ!
「ぐ、グァァ!!」
「!」
天人たちの肩や足に矢が刺さった。
どこか遠くから、誰かが援護してくれたんだ。
志士はその矢を見て、すぐ分かった。
(雅さん…!)
高い崖の上には、弓矢をこなす雅の姿があった。
慣れた手つきで、次々に上から敵を狙って矢を放つ。
白いはちまきを靡かせながら、呼吸も乱さず焦らず明確に射る。
「大丈夫か?!」
桂がその志士に駆け寄って手を差し伸べ、志士はその手を借りて立ち上がった。
「は、はい!」
敵が相手が仲間を助ける時の隙を狙って、奇襲をかけるのは定石である。
・・・
しかし、その隙こそ、
敵が油断してる“好機”(チャンス)でもある。
今の雅の役目は、その隙の敵の奇襲。
つまり手負いの味方の救出の時間稼ぎや援護をすることである。
もちろん、それだけではない…
「雅さんッ!後ろ!!」
彼女の後ろには数人の敵が迫っていた。
敵が刃を突き立てようとした瞬間、雅は何の迷いもなく高い崖から下りた。
着地して顔を上げても、地上に数え切れないほどの敵がいるのは変わらなかった。