第16章 愛しさと切なさは紙一重
「万斉先輩。ご武運を祈ってるっス」
「ああ。武智が一緒だと、拙者がいなくなったら突っ込みはお前ばかりでござる。疲れると思うが」
「ハイ。疲れるっス。私の銃の弾切れも時間の問題っス」
また子は常備している全弾を手の平に広げて見せた。
「紅桜の件で、幕府も我々に対しての警戒態勢が厳重になっているでござる。物資の補給も限られているからな」
「そうっスね~」
「万斉殿。そろそろお時間です」
船内のターミナルからお迎えの者が来た。
「ああ、分かった。ではまた子。最後に言っておこう」
「……」
「たとえ過去がどうであろうと、今の晋助を支えられるのは拙者達だ。それを忘れるな」
万斉は迎えの者と一緒に、ターミナルへ行き、また子は1人その場に残った。
「……晋助様」
私、晋助様のこと、勘違いしていたかもしれないっス。
あの人は、人間味がなくて、誰かに情を抱くこともしないような、少し冷たい人間のように見えていた。
けど、本当は逆だったんスね。
全てを失ったからこそ、昔の想いもそれを抱いた自分を思い出さないよう、逆に冷酷に振る舞っている。
戦争では、自分の感情を殺してでも、どんな汚い手を使おうとも、勝利するために戦ってきた。
それが10年前の、私達にとって英雄的存在である晋助様や“青い死神”を含めた攘夷志士の人達。
やっぱり風格や威厳がそこらの浪人とはまるで違うんスよね。戦に出た晋助様は。
私は戦争に出てない。戦いも晋助様に比べれば、まだひよっこの小娘。
人斬りで恐れられる万斉先輩にも、戦いの姿勢に関してはまだ足下にも及ばないッス。
あの武智変態は例外なので触れないッス。
(……もし、その“青い死神”がいたら、晋助様は…)
もうありもしないことを想像しても、何も起こらない。
自分達はただ、亡き友や家族達の尊厳のため、自分達の誇りにかけて、幕府を討つ。
それだけは変わらない。
(ただ、私ももっと晋助様のお役に立ちたいっス。その“青い死神”が、昔、晋助様を支えてくれたように…)
自分は助けられてばかり。だから、恩人に少しは恩を返したい。
また子はそんなことを考えながら、自分の持ち場に戻っていった。
悪党が考えそうにない、逆に善人が考えそうなことだった。