第16章 愛しさと切なさは紙一重
(不思議な話でござる。普通なら恋バナなど、誰もが顔を赤らめてはずかしそうにするものだが。戦の中で抱いてしまった想いとなると、その価値は他人には計り知れないほど重い物になる……)
晋助はきっと葛藤していたでござろうな。
おなごに好意を抱くなど、お山の大将がすることではない。感情を殺して戦に臨めと。
だが、酒を酌み交わした時のあの男の悲しそうな瞳。
どう見ても、その想いを捨てきれなかったんだろうな。
拙者が知っている晋助は、おなごに全く興味を示さない、無粋な男だ。
相当惚れていたんだな。その死神に。
・・
(晋助。今もお前は、過去の想いに縛られているのか……)
万斉は言葉を改めた。
「拙者達は幕府を滅ぼし新たな国を作ると共に誓った仲間だ。拙者達の役目は、晋助に国を討ち取らせることでもある」
目的を果たせた時、高杉の長年の思いが成就する。
その後、彼がどうなるのか……
万斉は予想したくなかった。
しかし今は、幕府中枢の目を反らすために、江戸で一仕事しなくてはならない。
万斉は船で江戸に着いた後、計画を実行する。
真選組の伊東鴨太郎という男を利用して、真選組に大混乱を巻き起こす。
真選組は骨のある人斬り集団だから、うまくいうとは限らない。
何より……
(“白夜叉”。坂田銀時。あの“青い死神”と同様、伝説の攘夷志士と謡われた男)
紅桜の件では邪魔されたが、今回も同じようなことが起きなければいいのでござるが……
まあ、だがあの男は、かつて晋助と肩を並べていた男。
たとえ邪魔されたとしても、少し興味があるからよしとするでござる。
紅桜で桂と共闘し、天人と対峙していた時、拙者は船の上からその戦いぶりを見たでござる。
一見その男から流れる音は、無関心でけだるそうな男ではあったが、あの戦いの中でその音はひっくり返った。
白夜叉。お前は桂のように国を変えることもなく、晋助のように戦うこともしない。
一体何が目的なのだ?
その音が分からん。