第16章 愛しさと切なさは紙一重
「そんな…じゃあ…晋助様は……」
また子の父親は国を憂い戦ったが、幕府に捕縛され殺された。
そして母親はその妻として、反乱の同罪を背負わされ、迫害され殺された。
それがまた子がここにいる理由だ。
両親や愛した人々を殺した幕府を倒すために。敵討ちのために。
また子は初めて高杉晋助に接触した時、そう言った。あなたの部下になりたいと頼んだ。
『私も一緒に、この国に復讐させてください。みんなの仇を…!!』
しかし、高杉は最初は首を縦に振らなかった。
『一緒に?俺とお前の仇が同じだとでも?だったら、その銃で“てめェ”(自分)の頭を撃ち抜いてみろ。俺がやろうとしてんな、そう言うことさ』
その時の高杉の瞳は、国ではなく自分を壊し続けているような、悲しい瞳をしていた。
・・・
(だから、晋助様は……)
大切な人を二度も護れなかった自分を壊そうと…
万斉が口を開く。
「晋助は自分の師を殺した幕府を憎み、復讐を誓った。そしてそれは、“青い死神”も例外ではない」
万斉はふとこんなことを思った。
高杉と酒を酌み交わした時のことだ。
その“青い死神”。いや、本当の名前は雅だったか。
ソイツについて語ると、高杉は懐かしむように口元は微笑んでも、瞳はとても悲しそうなのだ。
(晋助が、初めはまた子を引き込むことを躊躇ったのは……)
・・
また女に死なれるのを望まないからか。
「……晋助様にとって、それほど大事な想い人がいたなんて、知らなかったっス…」
万斉先輩が少し羨ましいっス。晋助様からそんなことを聞けるなんて。
「まあ、女のこととなると、お前に聞かせるには少し難ありな話しでござる。そこは分かるでござるな?」
「…はい。昔の好きだった人なんて、言うもんじゃないですしね……」
それが国に復讐することを決意したとなれば、なおさらだ。
「……“青い死神”が晋助様を庇ったって万斉先輩、言ってましたけど…それって…」
「悪いが、拙者が聞いたのはそれだけでござる。実際何があったのかは聞いていない。ただ…」
万斉は最後に青い死神についてこう言った。
「分かるのは、いくら神のごとき腕を持った医者でも、“死神”と呼ばれ、誰もが畏怖した伝説の攘夷志士でも、己の死という運命を乗り越えることはできないということだけござる」