第16章 愛しさと切なさは紙一重
万斉は時計の時刻を確認した。
高杉の命を受け、これから江戸に向かい真選組を倒すためにひと暴れしてくるのだ。
正確に言えば、宇宙海賊“春雨”が政府中央暗部と密約を交わすための目くらましとして活動するのだ。
もうすぐで江戸行きの宇宙船がチャーターされる。
「拙者はしばらくここから離れるが、他に聞きたいことがあるか?」
「……」
「今のお前のその顔を見てると、何か未練があるようでござる。聞けるのは今しかないぞ」
「……じゃあ晋助様は…その人を殺した敵を、よほど憎んでるッスよね」
また子は万斉と一旦別れる前に、胸の中のもやもやを少しでも取り除きたいと思っていた。
それは、ただ高杉という希望を少しでも支えられる存在になりたいという、純粋な想い。
断じて嫉妬ではないと、自分に言い聞かせていた。
さっき、見つけた書物を少し強引に取られた時も、この高杉の手に、焦りが垣間見えた。
一体高杉にとって彼女がどれほど大きな存在だったのか。
“青い死神”とは、一体何者だったのか。
それを知ることができれば、少しは高杉のことが分かると、そう信じていた。
万斉は少し表情を変えた。
「……ああ。だから奴は
・・・・・・・・・・・
自分を許せないのかもな」
「え……?」
自分が許せない?どういうことなんスか?
「“青い死神”の末路はな、
晋助を庇って死んだそうだ」
「!!」
『一番護りたかった奴を護れず、逆に護られて…ソイツは死んで…俺は生き残っちまった……』
『だから…殺したのは…俺だ……』
そうこぼして、杯をグイッと飲んだ。
高杉が国に復讐することを誓ったのは、松陽先生が殺されたのがきっかけだ。
しかし、さらに追い討ちをかける出来事があったのだ。
戦後まもなく、河原で並べられる晒し首。
幕府を脅かす反乱分子、攘夷志士の数々の屍。
その中に、いたのだ。
青い髪。目が閉ざされていても分かる美しい顔立ち。
松下村塾にいた頃から眺めていた顔。
彼女の首だった。
それ以来、今の高杉は完全に堕ちてしまった。
彼女の死がきっかけで。