第16章 愛しさと切なさは紙一重
え?
予想外の返答に、また子は立ち尽くして表情が固まった。
晋助様の…想い人?でも戦友だって……
「“青い死神”と謡われた伝説の攘夷志士。お前も聞いたことがあるだろう」
「それって…!確か、出会った敵をたった独りで皆殺しにして、白夜叉と同様に恐れられるくらい、めっちゃ強かったって」
しかし女だったとまでは知らなかった。
10年前の戦争でも、いろんな噂やデマが流れて、本当の情報が行き渡るとは限らない。
「そうだ。“お前の異名”(紅い弾丸)とは真逆の色だな」
「あと…、敵に情けを一切をかけなかった、非道な侍とかって、聞いたことあります」
「ソレ、晋助の前では禁句だ。もし言えば舌を斬られるぞ」
「舌…!?」
また子はつい両手で口を塞いだ。
「確かに嘘ではないが、少なくとも晋助の目に映っていたその女はそうじゃなかったらしい」
高杉と酒を飲んだ時に聞かされた興味深い話を思い出す。
「その医術の腕は神とまで呼ばれ、晋助たちにとっては、傷を癒やすその存在は聖母か、戦の希望。その気高き姿はジャンヌダルクのようだったと」
あの晋助様が、そこまで誰かを尊敬して語り聞かせたんスか?
しかもその人は、晋助様が特別な感情を抱くほどの人だったなんて……
また子は心が揺らいだ。
「じゃあ晋助様が形見を持っているってことは、未だにその人のことを……」
「そうだな。そう考えるのが妥当だろう。一見、人間らしさを捨て冷酷に振る舞っているアイツでも、捨てられない想いもあるということでこざるな」
その話を実際聞いたときは、拙者でも驚いたでごさる。
酒に酔っていて心境の変化が生じたのか?それとも、拙者を鬼兵隊の仲間だと認め信頼し、あえて話したのか?
国を壊すと誓った男が、まさかおなご1人にあそこまで悲しそうな目をしたとは。
拙者に「俺のために死ね」と監獄で宣っていた男が、酒の語り口であそこまで変わるとは。
いや、
・・・・・・
昔に戻ったと言うべきか。
なかなかに酔狂で人情深い男でござる。晋助は。
酒だけに。