第16章 愛しさと切なさは紙一重
「あの、晋助様。それって一体……」
高杉は貰った書物を懐にしまい、また子に背を向けて顔を伏せる。
「……俺の亡き戦友の形見だ」
それだけ教えて、どこかに行ってしまった。
また子から見て、その背中はいつもより一層寂しそうだった。
(晋助様……)
懐にいれるってことは、それほど大事な人だったんスかね?
また子はもやもやした気持ちを抱えて、自分の持ち場に戻る。
「久しぶりに見たでござる。晋助のあんな顔」
「!」
高杉とは違う男の声がして、また子は振り返る。
「万斉先輩!」
鬼兵隊の1人で高杉を名前で呼ぶ数少ない人物。
世間では謎の多い攘夷浪士と呼ばれるその男の名は、“人斬り”河上万斉。
刀を仕込んだ三味線を武器にする、鬼兵隊の手練れである。
「見てたんスか?」
「偶然でござる。さっき通りかかったら、あの男らしくない顔をしていてな」
「……何か知ってんスか?」
また子がそう聞くと、万斉が逆にまた子に聞いた。
「お前はあの書物について、どこまで聞いたんだ?」
「“亡き戦友”の物としか…」
「……戦友か。それだけならまだ奴も、あれほど苦しまずに済んだだろうな」
さっきから万斉は何かを知っているような口振りだ。
「じゃあ万斉先輩は知ってんスか?その人のこと」
高杉が大事に抱えるほどの書物。それほど想いのこもった亡き戦友との思い出。
それが一体誰の物なのか、また子はとても気になった。
「晋助が唯一惚れた女でござる」