第16章 愛しさと切なさは紙一重
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宇宙空間を進む艦隊。鬼兵隊の船。
船は、江戸からかなり離れた宇宙を放浪していた。
紅桜の件で、宇宙海賊“春雨”の後ろ盾を得ることができたが、真選組や幕府が動くほどの大事になったため、あれからしばらく江戸には帰っていない。
その船の通路を歩く1人の攘夷浪士。“紅い弾丸”。木島また子が廊下を歩いていた。
何かを持っている。
(どこっスかね晋助様?)
部屋をノックして開けたらいなかった。他に思い当たるところを片っ端から探していたが、どこにもいない。
また子が高杉を探しているのは、ちゃんと用があるためだった。
(あ…!いた!)
高杉は戦艦の窓の向こうの宇宙を眺めていた。
片手には愛用の煙管。その横顔と右目は、少し悲しそうだ。
(晋助様…何を考えてんスか?)
また子は高杉に恐る恐る近付いた。
「あ、あの……」
声をかけるとようやく気付いてくれた。
「何だ?」
「いえ。お一人のところ失礼します。コレが……」
また子が見せたのは、手にずっと持っていた書物。
高杉はそれを見た途端、顔色を変え、煙管を手から滑り落とした。
「それは…!」
見間違えるはずがない。忘れるはずがない。
それは紛れもなく、松陽先生の書物だ。
しかしただの書物ではなかった。
ナイフでグサッと刺したような痕がど真ん中にあり、大部分は血で薄汚れていた。
横から見ても、血が滲んでいたのが分かるくらいだ。
しかし色は鮮明な赤ではなく、茶色であることから、かなり昔だと分かる。
「ど、どこで見つけた…?」
高杉が詰め寄る。
「え…えっと…置物を整理していたら、偶然見つけて…」
また子は高杉のリアクションに驚きながら、質問に答える。
「……そうか。ありがとな」
高杉はまた子から書物を取った。受け取るというより、自分から少し強引に取り上げた。
(し、晋助様……?)
また子は知っていた。
高杉がいつも懐にしまっていた書物は、紅桜の件での桂の不意打ちの攻撃によって、傷が付いていた。
しかしその時に付けられた傷と、今渡した書物の傷が
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全然違うのだ。
つまりそれは高杉の物ではなく、
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同じ松下村塾生の誰かの物を預かっているんだと。