第16章 愛しさと切なさは紙一重
愁せんせーの代わりなんていない。作る必要はない。
それから私は松陽から“護る術”を教わった。それまでの私に欠けていたものだ。
だが、彼という光にはいつも私と同じ教え子達が集っていた。
私は慣れ合う気はなかった。他の塾生と関わるのは、先生の推薦で試合するくらいだ。
ただその中で妙な奴と関わってしまった。
((この男。どこかで……))
私はその顔に見覚えがあった。そうだ。高杉家の長男だったな。
私は愁せんせーの付き添いで、色んな家へ往診しに行った。
貧しいところも無償でやり、頼まれればなるべく受け持った。
せんせーの評判を聞きつけたのか、どこかの立派な家柄の所が、「華岡愁青に診てほしい」と文で依頼してきた。
その氏が、“高杉”だった。
アイツは私と松下村塾で会った時よりも前に、一度顔合わせしたことを、全く覚えてないらしいが。
ま、今となっちゃどうでもいいことだ。
ただ、アイツが私にしつこく試合をしてきたことで、私は次第に、苦手なはずの人混みさえ、気付けば少し悪くはないなと思えるようになった。
「……晋助」
「?」
「少なくともこの戦では、銀時やヅラや坂本。そしてアンタも、死なないでくれよ」
「な、何だよ急に?」
もちろん、目的を果たす時まで死ぬ気はさらさらねェが、何でこんな時に言うんだ?
ここは戦場じゃない。雅は可愛らしい着物で着飾っている。
今は新鮮な環境にいることで、何か心境に変化が生じたのか?
「……私は松下村塾にいる時から、アンタらのような奴らが近くにいるからこそ、
・・・
ただの雅でいられる。余計なことを考えずに今のことだけを考えられる」
「お前……」
「それに、アンタらのような馬鹿なら治しがいがあるのも事実。まあ手遅れの頭も中にはいるが」
「その手遅れの頭に俺は含まれているのか?」
雅は、今着ている着物を返してお直しに出していた服を取りに藍屋戻る時、フッと笑った。
私は自分勝手だが、もう決めてたことがある。
私はこの戦が終わったら、アンタらの前から姿を消す。自分の道を進む。
だけど、それまではアンタらの仲間でいさせてくれ。
高杉の背中を見つめて、心の中で思う。
アンタらは私のこと、忘れないでくれよな。