第16章 愛しさと切なさは紙一重
(……あれ?)
ギュッと瞑っていた目をゆっくり開けると、女の子は何の怪我を負ってないことに気付く。
どこも痛くない。大きな音がバァンッ!て聞こえてビックリしたのに。
(あれあれ?)
次に気付いたのは、皮膚の柔らかい感触。人の体温。それらが私の体を包んでいる。さっきの衝撃から守るように。
「あ!」
そしてはっきりと気付く。誰かが自分を抱きかかえていることに。
知らないお姉ちゃんが、さっき神輿が倒れてくる瞬間、助けてくれたんだと。
お姉さんの頭には、祭りのお面を斜めがけでつけている。
きれいな青い髪に翡翠色の瞳。綺麗な顔立ち。
一見人間らしくない不思議な印象があり、一瞬、人間に化けた艶麗な妖魔だと思った。
あの一瞬を助けてくれたのは、何かの妖術を使ったのではないかと。
女の子は恐る恐る、自分を抱きしめてくれているお姉ちゃんに声をかける。
「あ、あの……」
「……綿菓子、落とさなくて良かったね」
「え?」
女の子の片手にはちゃんと綿菓子が握られてある。
つまり、子供が気付かないくらいの速さで助け出したのだ。
(このお姉さん…一体……)
女の子はお姉さんの顔から腕へと目を落とすと、目を疑う。
その手には刀が握られていた。
え…!
顔がきれいに映るほどの光沢。美しい白い刃とその模様。夜のお空のような黒い峰。
刃と峰の白と黒の対比。それはまるで“新月”のようだった。
(きれい……)
女の子は「怖い」という感情より好奇心の方が勝り、その刀を美しいと思い、見とれた。
「お、おい!見てみろよ!神輿に斬られた跡がついているぜ!」
「本当だ!!何だこりゃ!?真っ二つだぞ!」
「あの娘がやったのか?!」
周りの注目は一気にそのお姉さんの方に向けられる。
「雅!お前…!!」
するとお姉さんの連れのような若い男性が慌てた様子でかけよる。
「すまん晋助。この子を助けるのに、つい使ってしまった」
そう言って、刀を鞘に戻す。
「助けたことに関しちゃ別におとがめ無しだ!だがここから離れた方がいいぜ」
「そうだな。幕府の犬が騒ぎを聞きつければ厄介だ。帰ろう」