第16章 愛しさと切なさは紙一重
「母上!この綿菓子おいしー!買ってくれてありがとう!」
女の子がにこにこ笑顔を浮かべて、片手に綿菓子を持って歩いている。
それを微笑んで見ている母親もいる。
「今日は祭りだから、特別よ」
あまり上等ではない着物を身にまとっていることから、あまり裕福ではない家族だった。
しかし母親はひもで固く縛っている財布を、今夜だけはゆるめて、特別に綿菓子を子供に買い与えた。
そんな小さな幸せが、この祭りの中にある。
「わー!見てみて母上!神輿だよ!」
「あー、本当に立派ね~」
この街の夜の祭りの名物である神輿が大通りの真ん中を豪快に通る。
縁側の誰もがその圧力や明るさに目を奪われる。
今は、戦が未だに続く戦乱の世。
世の中人々の価値観がぶつかり合い、幕府にとって不都合な者がいれば、すぐに斬り捨てられる厳しい世界。
攘夷志士やその家族となると、辛い経験をしてきた者もいるかもしれない。
反幕府の思想を持つ者も、皆から煙たがられ、災いと蔑まれる者も中にはいるかもしれない。
それで誰もが、幕府に逆らわないよう慎ましく生活する。
しかし幕府に逆らわないからこそ、ただ奪われるだけで、米や物質などあらゆる富も搾取される。
この貧しい親子も、その者の類かもしれない。
「うわー、大きくてすごいな~」
女の子はさっきまで夢中になってた綿菓子とは一変して、その豪快な神輿に心を奪われた。
普段の日常では、あやとり、お手玉、ままごとなど、小さな遊びばかり。
だが、神輿ほど大きく非日常みたいな光景を目の当たりにして、興奮しないわけなかった。
(こんな立派な神輿があれば、おままごとのお家にちょうどいいのに~)
子供らしい自由な発想で、ずっと眺めていた。
ガタンッ
「?」
あれ?なんか変な音がしたような……
視界が急に暗くなり不審に思った子供が見上げると、神輿がちょうど頭上へと倒れてきた。
グラァ
「!」
ダァンッ!!
神輿は大きな音と同時に地面にぶっ倒れた。
「キャーー!!!」
悲鳴が上がる。周りが騒然とする。
「お、おい!子供が下敷きになったぞ!!」