第16章 愛しさと切なさは紙一重
わっしょい わっしょい
(大きい……)
若い男達は、辰馬に負けないくらいのでかい声を上げ、御輿を豪快に上げている。神輿もまたでかい。
御輿の向こう側にも、楽しそうに見物する人たちがいた。
戦場とは全くゆかりのない、平和な景色が広がる。
笑い声、ゆっくりな足音、屋台のおいしい匂い、多くの人。全てが平和の証。
それに比べ、自分たちがずっと居座ってきた戦場は全く違う。
断末魔の叫び。そこから息絶えて無音になる。
敵の砲弾から逃れまいと必死に駆ける足音。
腐った血なまぐさい多くの死体。
こんな日常を見てしまったら、戦場に絶望する人も少なくはないかもしれない。
普段は無欲な雅は、御輿に少し見とれていた。
カパッ
「!」
急にお面が頭の横にズレた。何だと思ったら、隣の高杉が動かしたのであった。
「そんなもんつけたままじゃ見にくいだろ?今くらい外しとけそれ」
「……」
確かに、お面の穴からじゃ視界が悪かったが、外したおかげで急激に見やすくなり、おまけに少し涼しくなった。
「なあ、神輿を見るのもいいが、屋台で遊んでかねえか?……昔みてえに」
高杉は、雅が祭娯楽の名人だということをよく覚えていた。
射的は断トツの一番。金魚すくいでは華麗にすくい、型抜きは手術をするように精密かつスピーディーにやりこなした。
今思えば、医者としての教養がある彼女が、他に比べて人一倍器用なのは納得がいく。
「……そうだな。そうやって昔に浸るのも悪くないだろう」
戦において過去を振り返り後悔することは絶対にしてはいけない。
だが、仲間と昔を分かち合うことは問題ない。
ガタンッ
「!」
雅は祭りの雑音の中で妙な音を聞き取った。
音がした方を見たら、神輿がある。
「晋助。今変な音が聞こえなかったか?」
「いや、聞こえてねえが…?」
雅は自然に神輿の方へと体が動いた。
今まで戦で培ってきた生き残るための戦いの勘というものが、この祭りで働いた。
神輿から聞こえた妙な音。それは、木のつなぎ目あたりが老朽化で壊れかけていた音だった。
そしてそのそばには小さな子供がいた。