第16章 愛しさと切なさは紙一重
あんたが何気なく言っている“それ”、私はずっと前からそうだった。
母とせんせー、2人を幕府に奪われ、生きる“希望”を失った。
だから何度も私は、自らの手で自らを終わらせようと試みた。あの人たちがいないこの世界なんて、意味がないから。
私を愛してくれた家族は、もういない。
けどできなかった。
何度も試みるうちに気付いてしまったんだ。
私が死ねば、あの人たちを想い続ける人がいなくなる。
あの人たちの生きた証が無くなってしまう。
だから私は、ずっとあの人たちを想い続けるためだけに、仕方なく生きようと思った。
大切な人たちはあの2人だけだと。そう思っていた。
銀と松陽に出会うまでは。
以前、桂は私のことを“皆の希望”だと言った。今共に戦っている仲間にとって欠かせない存在だと。
私はこの先、自分を軍医雅として在り続けるために、銀、ヅラ、坂本、晋助、コイツらのことは必要だ。
だが、それは
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この戦いにおいての話だ。
私の今までの人生を創り上げてきたのは、もっと別の人たち。
あの人たちの代わりなんて、できるわけがない。
この気持ちをもしこの場で吐き出せば、アンタは私に同情するか?
アンタが、たとえ理解のある仲間に囲まれても、松陽先生のことを忘れることができないように、私もまた、たとえアンタらという仲間がいたとしても、せんせーを忘れられない。
もしこの戦で、松陽を奪還できれば、アンタは自分の道を進むだろう。松陽の教えに則って、自分の侍を貫くために。
だが私には、何も残らない。
“私の希望”(せんせー)がいないなら、私はこの医術を私ごと葬り去る決断を下すかもしれない。
戦が終わっても、私は……自分の幸福を望まない。
私はあの人たちの死を乗り越えて、自分だけが幸せになることなんて、絶対できない……
そもそも私の幸せは、10年前にすでに終わっている…
「……全ては松陽のため……実にアンタらしいな」
ワー ワー
周りの人の歓声が響いた。
大通りの真ん中で大男達に担がれている立派なお御輿を見て、盛り上がっていた。
そうか。そろそろ祭りが本格的に始まる時間だ。