第16章 愛しさと切なさは紙一重
「人の話は言い終わるまで聞けよ」
「アンタが言いたいことは分かる。さっきから私の左手ばっか見ているからね」
雅は愛想のないことを言い、右側の屋台ばかりを見て左側の高杉から目を反らしていた。だけど、手はしっかりと握っていた。
何だか矛盾しているようだった。
「……願掛けで利き手を巻くなんざ。逆に不便になるんじゃねェか?」
「確かにあんたの言う通り、せっかくいい着物を借りているのに、手がこんなんじゃ合わないな」
「ファッションの話じゃねェよ。俺の言いたいことが分かるとほざいた途端に間違えてんじゃねーかよ」
人混みが少なくなったところ、雅は急に足を止めた。
「……念のために言っておくが、今アンタが握っているこの私の左手の包帯をはぎ取ろうなんて考えるなよ」
雅は急に近寄りがたい異様なオーラを発し、高杉の手を強く握った。
「私は事情が事情で、自分の出生を軽く話すことはできない。アンタが私を不審に思う気持ちは分かる。だがこれは、アンタらのためにも言っているんだ。私に深く関われば、アンタも……私の母のような末路を辿るぞ」
「!」
すると、高杉は雅の手は少し震えていることに気が付いた。
彼女の顔色は死神のお面で見ることはできない。だけど、その手の震えだけで、彼女の心情が分かる。
(こいつ……)
母親は病死したと聞いたが、それを言うということは、つまり…
(やはり直接的な原因は“幕府”……)
そして左手を頑なに見せねえのは、まさか……
母親が罪人だと分かっちまう何かが刻まれているのか?
高杉は彼女の左手を握る力を強めた。
「別におめーを怖がらせてまで知りたかねェ。だが、1つお前は間違っている」
「?」
「俺たちはすでに、国にたてつく反乱分子、攘夷志士で罪人みてーなもんだ。お前の母親が自ら望んで好きな奴と一緒になったみてーに、俺たちも大事な人のために罪人になっているんだ。むしろ罪人上等だ」
「……なら、アンタは罪人になってでも大切な人を護れれば、それで死んでも構わないと?」
「……それぐらいの覚悟はある。松陽先生に死なれたら……生きた心地がしねえだろうからな…」
「……」
大切な人がいなくなれば、それは死んだも同然。
・・・・・・
私はずっとそうだったよ。高杉。