第16章 愛しさと切なさは紙一重
“たとえ亡骸でも、その人がこの世で生きていた証なのだから、その証を決して無下に扱ってはいけない。
死んだ人間は喋らないから、その意志は分からない。
でも、お前がその人の生きた証をしっかりと見据え、医術を獲得し、未来につなげる。命を救えるようになる。
そうなれば、生きた証はお前の中でずっと生き続ける。決して無駄にはならない。それを忘れるな”
恥ずかしいことながら、私は母を救えなかったショックで、その生きた証を無駄にするところだった。
でも、松陽が示した道のりで、志を共にする友ができた。
大切なものを失うのはとても辛い。なら最初から持っていなければいいんじゃないか。
でも私は結局また出会ってしまった。
今の私は、復讐よりもそんな馬鹿共を殺させないために戦う。
また失わないために戦う。
「……私は幼い頃から自ら望んで医術を極めた。日常的に生と死を実感してきた。だから、普通の人間と違って、頭のネジの一本や二本がおかしいのは無理もない」
雅は高杉にそう言った。
自分は普通ではないから、敵に死神だの何だの言われても、別にそれはおかしな話ではなく、むしろ当たっているのだと。
「……せっかくこんな祭りに誘ってもらったのに、結局は戦のことばかりだな。あんたと話すのは」
「……」
この時高杉はふと思った。
もしこの戦が終わったら、彼女は死神になるのをちゃんと辞められるのだろうか……
母親が罪人だったから、この先も肩身の狭い思いをしながら生きていくかもしれない。
でもそうさせないために、今の世をひっくり返し革命を起こす。
そして、周りの女への偏見を無くし、彼女が医者を続けられるようにする。
戦が無くなれば、戦う必要もなくなる。彼女が刀を持つ必要が無くなる。そうすれば死神はいなくなる。
皆がそれぞれの道を歩み始める中、彼女はもう、殺す必要がなくなって欲しい。
この先の医術の先駆者として、人を救うためだけに、その力を振るい、自分のために生きて欲しい。
高杉はそんなことを密かに願い、彼女の横顔を眺めた。
(好きな奴の幸せを願うのは、当然のことだろう……)