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君想ふ夜桜《銀魂》

第16章 愛しさと切なさは紙一重



私はその死体を使って、人体の構造を実際にこの目で見た。せんせーの指導の元でね。

血液循環、臓器の位置、骨の部位、瞳の中までも。

幼少期から、生きた人間よりも、死んだ人間と対話することが多かったかもしれない。

週に1回、死体を開き、その人物がどんな特徴なのかを知る対話だ。

そして私は段々と、普通の子供ではなくなった。

それを初めて実感したのは、私が母と一緒にいて、その時別の親子が私たちに声をかけた時のことだ。

母親同士で談笑していて、向こうの男の子はもじもじしながら、私に「一緒に遊ぼうよ」と声をかけてきた。

その時、恐らく向こうからしたら、私を“友達”だと思っていたのだろう。

だけど、私はそうじゃなかった。“修行”(死体の体を切り開いてきた)で、感覚が麻痺していたのかもしれない。

まだ未成熟な子供の体。私とはそんなに体格差もない。

私はその子供を友達ではなく、“多くの組織を全て合わさってできた人体”として見ていた。

そんな童がこの世に何人いる?恐らく私1人だけだろう。

そんなことを考えていた私は、正気の沙汰じゃなかったのかもしれない。

私は今までの自分の歩みに後悔はない。結果は残酷なものに終わってしまったが、それでも、今多くの命を救っているのだから。

だから、私が常軌を逸していると見られるのは、仕方のないことなんだ。

晋助。アンタみたいな生きた人間よりも圧倒的に、死んだ人間を相手にしてきた。

アンタが、私が死神と呼ばれることを気にかけてくれるのは知っている。だけどしょうがないんだ。

なぜなら今アンタの隣にいるのは、幼い頃とっくのとうに死神の化身になっていた奴だから。


医術を身につけるために、死体を実験台にするなんて、非人道的かもしれないが、何事も練習は必要だった。

命を救う術を手に入れるためなら手段を選ばない。奇跡を起こさせるには、それくらいやらなければいけなかった。

死体を調べ終えたら、死体はなるべく元通りに治して、ちゃんと弔うのが、せんせーと約束したルールだった。

“1人1人の命の重さを実感し、その生きた証をちゃんと見届けるのも、医者としての義務だ。それがたとえ亡骸でもな…”

せんせーは墓の前で神妙そうな顔をして、横にいる私にそう言い聞かせた。

私はそのせんせーの教えが好きだった。

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