第16章 愛しさと切なさは紙一重
「名前に“銀”がついているのは珍しい。だから省略しても誰だかすぐに分かる。それに省略すればその余った分を、この小説の文字数に回すこともできるだろう。作者にとっても都合がいい」
(その思いやりを作者でなくもっと他の奴らにしたらどうだ?)
銀時の名前を省略するのは文字数稼ぎのためでもあることを知り、高杉はリアクションに困って苦笑いをした。
「とにかく私は何としてもこの戦に勝たなくてはならない。銀には色々と思うこともあるが、全ては私の1つの目的のためだ。そのためなら私は惜しみなく、本物の死神にもなる覚悟でいる」
(そのお面被ってたら、説得力有り余んな……)
今コイツは死神のお面を付けている。
だが戦場でコイツを見た敵は、雅がもっと死神に見えるんだろうな。
高杉はやはり、彼女が“人情が欠けた冷酷な死神”だと、忌み嫌われることをあまり心地よくは思わなかった。
たとえそれが敵を脅かすことができても。
彼女は、敵味方に容赦なく刃物を入れてきた。戦に勝つために、敵には剣を。治療のために、味方にはメスを。
敵が戦場で、彼女の執刀を偶然見たこともある。
それで彼女のことを、「血も涙もない死神だ」と、他の仲間に言いふらした。だから、敵の間での彼女の評判はとても悪い。
しかし、仲間を救うために何の躊躇もせずその体を切り開く。手段は一見冷酷でも、彼女の行いは間違いなく賞賛に値するもの。
ただ、彼女の医術が高度すぎて、世の中の常識がまだついてきてないのだ。だから、味方を含めた皆は、彼女が女である以前に、その医術を不審に思う。
「……あんたには以前言ったね。私は病弱だった母を救うために、幼い頃から医術を身に付けたと」
「……ああ。てめーの母親は、お家を裏切った罪で幕府に指名手配されたから、満足な治療も受けることができなかったんだろう?」
「!。……そうだ。だから私は医者の先生からその技術を得て、その全てを母のために尽くす、はずだった…」
そう。幼い頃から何でもやった。何も躊躇しなくなるまでに。
戦乱の世だから、死体など探すのはそんな難しくはない。