第16章 愛しさと切なさは紙一重
(……雅は今まで、あのバカに同情してたってわけかい……)
俺は正直複雑な気分でいた。
雅と銀時は境遇が似通っているから、他にはない同族意識をお互いに感じているんじゃないかと、以前思ったことがある。
が、まさか無愛想なコイツが、あの銀髪バカをそこまで考えていたとは。
(雅の謎の師匠…)
雅は自分の師を頑なに話さない。理由は、
・・・・・・・・・・・・・・・・
そういう盟約で医術を学んだからだと。
だから俺も無理に聞けなかった。だがヅラは……
『そんな人がまだ十ほどの童だった雅を放っておくワケがない。きっと何らかの事情があって雅を引き離したんじゃないかと俺は考えている。その者が今どこにいるのか。それともまだこの世にいるのかは知らんが』
『独りさまよっていたところを、松陽先生に拾われた。銀時と同じように、きっと辛い思いをずっとしてきたのだろう。もしかしたら、自分の師の背中を、ずっと前から追いかけ続けているかもしれんな。今の俺たちのように……』
さすがは将と名乗っているだけはある。俺はそんな奴の憶測が正しいと思った。時に天然バカなところが玉に瑕だが。
今もその師は生きているのか。それとも、亡くしたからこそ、雅は独りでさまよって、松陽の元に行き着いたのか…真相は分からん。
だが、今のコイツの元にはいねえのは確かだ。遠くにいたら手紙のやり取りもするはず。
それがねェってことは、何かしらの理由で失ったに違いない。
だから知っている。親も師も失うことがどれだけ残酷で耐え難いほどの苦痛なのか。
相手への思いやりが表面上はちと欠けている奴だが、そういうのが分かっちまうから、今まで銀時に優しかったのか。
「お前は銀時を“愛称”(銀)と呼ぶくらい、懐いてんだな」
高杉はちょっと嫉妬混じりで雅に聞いた。
「え?いやそういうわけじゃあない。この活字世界じゃ、誰のセリフか分かりづらい。ならせめて私だけが銀時を“銀”と呼べば、それが私のセリフだと分かるだろう?」
「いやそんな理由かよ!」
この500ページの間、ずっと彼女はそんな理由で銀時を愛称で呼んでいたことが発覚した。
高杉はたまげるも少しだけホッとしてしまった。彼女はそこまで銀時に懐いているわけではないことが分かったので。