第16章 愛しさと切なさは紙一重
「……」
雅はお面をつけているため、黙ったままだと何を考えているか読み取れない。
だけど、否定しないということは、当たっているのだ。
俯いて、昔のことを話し始めた。
「私は…松陽を助けられなかったことを、ずっと後悔してきた。親を失う辛さを、誰よりも知っているはずなのに、“アイツら”(天導衆)を目の前にしたら、体が動かなくなって……銀に同じ思いをさせてしまった」
ググッ
風呂敷で包まれている刀を力強く握り締めた。
彼女はこの世でたった1人の母親を亡くした。そして、師匠も失った。
しかし、全ての原因は、幕府とその裏で暗躍している奴らだと決め付ければ、少しは気持ちが楽になった。
でもそれはできなくなった。
・・・・・
あの時から。
燃え盛る松下村塾。泣き叫ぶ銀時。烏のように真っ黒な衣服を身にまとう暗殺者。
銀時は何度も松陽の名を叫んだ。親と離れ離れになる子のように。
その叫び声は、昔の私の感情を代弁するかのようで、私は苦しくなった。
忘れていた感情。失いかけていた感情が蘇ってしまった。
“なんだ……親も、師匠も失ったのは、私のせいだ……だから…今回も、守れなかった…!”
業火を背景に、松陽と銀時、二人の距離が遠くなるその光景で、私がかつて黒い烏によって師と離ればなれになったのを、はっきり思い出した。
自分がまだ医者として未熟だったから。私がせんせーのような強さがなかったから。
あらゆる苦悩がかき回され、炎で荒れた空気はとても息苦しかった。
とにかく苦しかった。いや、一番苦しいのは銀時だ。
あの脳天気な横顔を眺めるとき、いつも脳裏によぎる。
あんなふざけている奴が、本当はこの戦で絶対勝ちたいと願っているんだと。自分の師、親も同然の大切な人を取り戻すために。
だから、心を文字通り“鬼”(夜叉)にして、敵はおろか味方にさえも恐れられながらも、ずっと戦っているんだ。
私が“青い死神”と呼ばれているのと、銀時が“白夜叉”と呼ばれているのじゃ、きっと格が違う。その戦にかけている想いも、覚悟も。
「……私は奴の気持ちがよく分かる。
・・・・・・
分かってしまう……だから、私はこの戦いで必ず松陽を奪還して、
・・・・・・・・・・・・
私が成し得なかったことを、銀には必ず成してほしいと思う」