第16章 愛しさと切なさは紙一重
私の使命は、多くの仲間の命をつなぐことで、この戦の勝利に貢献すること。
だが、負傷した仲間を救うことよりも、私情を優先し殺すだけの者になれば、私は医者じゃなくなる。
今までの“あの人”とのつながりを無駄にすることだ。
私はこの先、復讐に身を任せず、反乱軍の1人として、国を救うために戦う攘夷志士として、奴らと対峙する。
山で奴らと遭遇したときは、独りだったから我を忘れていたけど、高杉たちがそばにいてくれれば、私は使命を忘れず、軍医雅でいられる。
私には、コイツらが必要だ。
「……たまに考えることがあるんだ。その…復讐についてだけど……」
雅はさっきまでトントン拍子に話をしていたが、なぜか言葉を詰まらせた。
「私は、母を追いつめた幕府を憎く思っている。でも、私以上に奴らを憎んでいる奴がいるとは思わない?」
「?」
俺は雅が示唆するその誰かを考えた。
雅の母親は、跡継ぎを生むという道具の人生を捨て、自らが決めた人生を歩く決意をした。そこで1人の男と添い遂げることも決めた。
それで、お家を裏切った罪で幕府に指名手配犯にされた。しかも母親は持病持ちとコイツは言った。
幕府が追いつめたことが原因で病気が悪化して死んだと考えりゃ、コイツが幕府を憎むのは当然だ。
だが雅以上に幕府を憎んでいる奴。誰だ?
俺は、松陽を拉致した幕府を許せねェが、親を奪われたコイツの方がもっと許せ……
「!」
「私が言いたい人物の名前、分かった?」
松陽を奪われ、俺よりも許せねェと思っている奴……
あの人との付き合いが一番長い“あの男”……
「……銀時のことか?」