第16章 愛しさと切なさは紙一重
「……」
俺は雅が言うことを理解できた。だから俺も正直、コイツの意見に賛成に近かった。
が、それを言う前に聞きたいことがある。
「……じゃ、てめェの本心は、復讐で成り立っている戦争は必然的に起こるもんだから、受け入れると?」
戦争を受け入れるということは、俺たちの仲間が死んでいったことも受け入れるということにもなりかねない。
それは死んでいった仲間たちの名誉に関わることだと、そう思った。
別に怒ってはいない。ただ、普段から腹の内が読めないコイツの考えをもっと知りたいと思った。純粋な理由だ。
「……そうだな。戦を受け入れるとは少し違う。正しくは、“肯定もしないし否定もしない”ってところだ。傍観者と言い表せばいいか」
「傍観者か…」
戦が起これば多くの人間が死ぬ。医師の雅が俺たちの中で最もその残酷さを理解している。
だから、戦は悪だと分かっている。
しかし、大切なものを奪われ、その名誉を守るために戦う意志も、よく理解できる。
“愛”。その言葉は、コイツに最も似合いそうにない言葉かもしれねェ。
周りからも、人間らしくないとよく言われているからな。
恋愛にも興味がなく、誰にも愛想を振りまこうとはしない。
まあ、その理由は、隊士たちに誤解されないようにするためにわざとやっているからだが。こいつの場合。
(だが雅は……母親と、医術を教えた師を尊敬している。心から“愛”して、そして“愛”されていたに違いねえ)
“愛は人が必然的に抱く感情”。
もし雅が周りの奴らが言う、本当に冷酷な奴なら、そんなこと言うわけがない。
だからこそ、復讐のための戦を否定できない。その人の誰かを愛する想いを否定できない。
そこで選ぶのは、否定もせず肯定もしない、傍観者。
「お前は、奈落の奴らや幕府のことを恨みながらも、私情だと切り捨て耐えるのか?それとも……」
愛の方を選ぶのか?復讐を選ぶのか?
雅は目線を下に向けて、しばらく黙り込んでから、口を開いた。
「復讐に走れば、医者としての最低限の矜持でさえ失う。つまりそれは、我が師から受け継いだ物を蔑ろにするってこと。だから私は……復讐できない」