第16章 愛しさと切なさは紙一重
「煙管もいいが、若い女性にあげるんだったら、もっと可愛らしいモンがいいと思うぞ。その人が人からの贈り物を蔑ろにしない優しいお方じゃったら、何でも喜んでくれそうだしのう」
(可愛らしいモンか…)
高杉は店内一式を見渡したら、綺麗な髪留めが目に留まった。
(髪留め……あ)
戦が本格的に始まる前、雅は髪を切った。
だがその時はなんだが、少し名残惜しそうな面ァしてたな…
(今の雅の髪の長さじゃできそうきもねェが……)
たくさんの髪留めを見ていると、1つのデザインが目に留まった。
桜の柄が入った綺麗な髪飾りだ。
高杉は手に取ってみて、店主は言葉を付け加えた。
「今は夏の季節じゃが、見事な物だろう。しかも職人が唯一無二として作った代物だから、この世に二つもない物だ」
商売人はおだてるのが本当にお上手だ。
だが高杉自身は、悪くないと思っていた。
自分の顔が写るほどの綺麗な光沢。淡いピンク色。白も入っていて、より一層桜柄が綺麗だ。
「桜の花言葉は、“雅な女性”」
「!」
「つまり、“美しい”ということじゃ。大事な人へ贈る言葉にピッタリじゃろう」
本当にピッタリすぎて高杉はビックリした。
煙草の花言葉、“孤独”もそうだが、桜にまさかそんな意味が込められているとは知らなかった。
「ワシが思うに、桜の美しさはその見た目だけじゃない。春が過ぎて花が散っても、1年かけてまた再び花を咲かせる、人間にはない強さじゃ。美しい女性というもの、桜と同じじゃ。そう思わんか?」
見た目だけでなく、その魂でさえも強く美しい。
雅を花でたとえるとしたら、まさに桜だ。
「……ああ、そうだな」
高杉は決めた。
「おい雅。気になるもんでもあったか?」
「……いや、戦で見かけないものばかりで何だか不思議だ。この風景が日常なのに」
自分達は戦で血なまぐさい光景を見てきたから、やはりこういう平和的な雰囲気には何だか馴れなかった。
「そういうアンタは何か買ったの?」
「ま、まあな。そろそろ次の店にでも行くか」
高杉は小さな包みを着物の懐にしまった。