第16章 愛しさと切なさは紙一重
雅が母親の血縁問題で、自分の素性を隠して生きていることも知っている。
だから幕府とは相反する俺達反乱軍が、アイツの居場所になっているかもしれねェ。
だが、もし戦がなかったらと考えると。
なかったらなかったで、奴にとっての居場所があったんじゃないかと思う。
戦場とは違う、アイツにとって幸せでいられる場所が。
(俺もおちたな。タラレバみてえなことを考えるとは)
俺は決めたことは後悔しないことが信条みたいなもんなのに
「そこの若旦那」
店主らしき年寄りが声をかけてきた。
「女物の小物を眺めているところから、恋人の贈り物かい?」
「……ああ。そんなもんだ」
「じゃが、なかなか決まらず苦い顔をしているところから、女性へ贈り物をするのは初めてじゃないかい?」
「……ああ。そんなもんだ」
高杉がウブな感じで、店主はウフフフと心が躍った。
こういう恋に悩む客を前にすると、若い時の恋心を思い出しキュンキュンする。
「決まらないなら、その人の日常を思い浮かべればいいと思うぞ」
「日常?」
「ああ。その人が普段やっている癖やこだわりっていうのは、日常を思い返せば分かるもんだ。たとえ無愛想な奴でも、絶対に自分のルーティンがあるんじゃ」
(五郎丸がやっているみたいなことか?)
とは言っても、雅のルーティンなんて、そんなもの……
高杉はふと思い出した。雅は仕事の合間、外に出て煙管をふかしていることがあるのを。
(新しい煙管もいいかもな…)
高杉は煙管コーナーを見てみた。
風情な柄の物が多く、華やかだ。
「アンタの恋人。煙管を使うのか?」
「ああ。医術に関わる人間なんだが、体に悪いんじゃねーかなんて思うこともあらァ」
しまった。雅が医者なのはあまり口外しちゃいけねェんだった。名前を言ってねェからセーフか?
「ならアンタ恋人は、孤独が好きなんじゃな」
「!。どうして分かったんだ?」
「煙草の花言葉は、“孤独な愛”。そして“孤独が好き”とも意味が込められている。ワシは煙管を買う客も使っていた客も多く見てきた。ソイツらの印象の共通点は、一匹狼のような気高さを持っていたことだ。不思議なもんだな」
見た目によらず老人は花言葉も熟知しているロマンチストだった。