第16章 愛しさと切なさは紙一重
「……そうか。今だけは若夫婦ごっこに興じる、ということか」
「で、どうなんだお前は?」
「……いいよ」
高杉にとってこんな話。まるで夢のようだった。
気がある彼女と、仮初めながらも恋人になれるのだ。
彼女にとっては、その方が都合がいいとか、いちいち説明するのが面倒だからとか、そういう理由かもしれないが。
歩き途中に老舗の雑貨屋が目に入った。
「この店に入ってみるか?」
「……アンタに任せる」
入ってみた。
中は簪や扇子など風流があるものが売られていた。
この街は人だけでなく物もとても充実している。
いい物を作るにはいい職人が欠かせない。
(俺達には馴染みのねえモンばかりだな…)
高杉含めた戦で戦う者達は戦場に明け暮れる。
物といったら、刀や爆弾などの武器やきず薬などといったものをよく見る。
こういった平和的な物をお目にかかるのは、本当に久しぶりだ。
こんな平和的な空気に酔いしれると、戦で負った精神的な傷も癒される。
少しの間だけでも、普通の人間に戻れる。
高杉は奥で別の物を拝見している雅の方を垣間見た。
彼女もまた、店の売り物を興味深そうに眺めていた。
(やっぱこうして見ると、巷で評判の町娘って感じだな)
その横顔はとても趣があり、女性らしい美しさももちろん凛々しさもある。
戦で戦ってきた猛者のようなただ者ではないオーラを兼ね備えている。
(……アイツにとっての幸せは、こんな町で所帯持って暮らして、こうして店で好きなモン買って、普通に暮らすこと、なんてな…)
雅が戦前、出陣を志願した時、俺と銀時はそれに賛成した。
松陽先生を助けるために、奴の戦力も大いに役立つし、奴自身もそう望んでいたから。
俺は正しいことをしたはずだと。
(だが今になって思えば、戦が雅の世界を狭めているんじゃねェか、なんて思っちまうこともあらァ……)
戦での雅の働きは申し分ない。
雅がもしいなかったら、恐らく俺達はとっくの前に負けていたかもしれねェ。
だが、もし戦がなければ、雅は自分の力で、その能力を自分のために使えていたかもしれねェ。