第16章 愛しさと切なさは紙一重
雅もOKしてくれたが、さてこれからどうしようかと、高杉は苦悩した。
女を連れて歩くことは初めてだから、どこに行けば喜ぶのかが今一つ分からない。
しかも表情が読みとりにくい彼女は鬼難だ。
ここは本人に聞いてみるのが一番だ。
「雅。お前、どこか行きたいところはあるか?」
「私は用事を済ませたから特には。アンタは?」
「いや、俺も……。!」
そういや、ヅラたちと雅に日ごろの感謝の意を込めて、何かプレゼントしようなんて話していたな。
サプライズもいいと思うが、やっぱり本人が好きなモンを買わせるのがいいだろう。
「雅。何か欲しいモンあるか?」
「戦の勝利」
「そういうモンじゃねェよ。ていうかてめェたまにそういうボケするよな」
高杉は頭をかいた。
「前も言ったが、俺達はてめェに借りばかり作っている。だから1人の友人として何か贈ろうと思ってな」
「その発案者は恐らく坂本あたりか…」
遠まわしに、「アンタにそんな配慮はできない」と言われているようでイラッときた。
「それであるのかって聞いてんだ」
「……明日へ羽ばたくための翼」
「……俺も欲しいよ」
何だかお互いに虚しくなってきた。
だが高杉は、何だか悪い気分はしなかった。
(何だか黒子野の言った通り、これがただの幼なじみの会話って奴か……)
拠点の寺や戦場にいたら、どうやったら勝つかとか、患者の治療のことなどの話ばかりである。
だけどここにいれば、ただの友人として年相応に楽しめる。
それか、友人ではなく、恋人みたいな……
(って、何考えてんだ俺。雅が若夫婦と嘘付いたのはもう終わったことじゃねーか。こんなに引きずるなんて…)
「晋助。アンタ、恋人っているの?」
「!」
雅は藪から棒に言ってきた。その手の話は全く興味が無さそうなのに。
「い、いねェよ。何でそんなこと聞く?」
「……店に入る度に、私達は若夫婦と勘違いされる可能性がある。だからその度にアンタを不快にさせると思うんだが」
「……俺は不快じゃねェ。むしろいいんじゃねェか今回くらいは。藍屋にもそう言ったから、この街にいる間だけは」