第16章 愛しさと切なさは紙一重
(こんな重たい服は子供以来だ…)
10年前、何かのお祝い事で母が見繕ってくれた着物を着た気がする。
あ、お祝い事は、私の七五三の七の時か……
その時は、父さんいたっけ…
(それより、まさかこんな普通のおなごが着そうな服を、戦がピークの時のお暇に着るとは……)
しかもオレンジ色って派手。
作者のスマホのカバーがオレンジ色だから、夢主もオレンジって、決め方が雑すぎる気がする。
雅はしぶしぶ暗い廊下から明るい部屋に入り、着物の色が明るみに出た。
思ったよりも明るい橙色だった。
(着るモンによって、こうも違うのか……)
部屋の隅で根暗にしてやがるアイツが、地元で評判の町娘に見える。
高杉は瞬きの回数を増やした。
「やっぱり見慣れないよね…」
「……そうだな。だが、似合うんじゃねェか?」
高杉が言えることはこれが精一杯。
「綺麗だ」とか「可愛い」なんて言う度胸はなかった。しかも人前で。
「よし。じゃあ先生の服は夜に取りに来な。ここにいられちゃ商売の邪魔になる。待ち時間は外に行きな。
・
街なだけに」
『……』
藍屋主人のボケは全くもって面白くなかった。
「せっかくこんな素敵な格好をしているから、外を歩くのもいいんじゃないかしら?」
藍屋勘が主人の通訳をした。
「し、しかし…このような姿で歩いたら、何だか自信が持てず……」
珍しいことに雅は眉を下げていて、本当に自信の無さそうにしていた。
犬が尻尾を下ろしているように。
「大丈夫よ。彼もいるんだから」
藍屋勘は高杉に向かってニコリと微笑んだ。
「……」
高杉も何だか自信が持てず、頬をかいた。
(だが、せっかくのチャンスだ。雅のためにやるしかない)
戦のことは忘れてもらって、息抜きさせるんだ。
そんで、色々と聞きたいこともある。2人でなら聞ける。
「じゃあ俺達は邪魔らしいから行くか」
「……うん」
雅は足袋と履き物もレンタルして、綺麗な着物で外を出た。
刀は物騒だから、布でくるんで持って置いた。
服と一緒に預けようかと思ったが、念のために。
「では服のお直し、改めてよろしくお願いします」
高杉と雅は街中へ赴いた。